習近平国家主席の年収はいくら?――紅い中国の「灰色特権階級」

執筆者:竹内健二 2022年11月9日
タグ: 習近平 中国
エリア: アジア
2014年に給与が6割増になったという習近平党総書記(C)AFP=時事
毛沢東は「政治以外はもっぱら読書とお茶とたばこ」で清貧だったと言われるが、習近平は果たして――。秘密のベールに包まれた中国共産党幹部の給料に迫る。

 

 何ごとも秘密主義の中国にあって、とりわけ不透明で、かつアンタッチャブルな領域が「領導(リンダオ)」=指導者たちの私生活だ。10月16~22日に5年に1度の共産党大会が開かれ、習近平党総書記(国家主席)が異例の3期目続投を確定し、新たな最高指導部7人の顔ぶれも出そろったが、彼らの「素顔」はベールに包まれている。

 勤務時間は? 食生活は? 住まいは? 服の趣味は? 休日の過ごし方は? 煎じ詰めれば、いくらもらっているのか?――。日本のように閣僚の資産公開があるわけでも、暴露系週刊紙があるわけでもない。

 貴重な情報としては、今ほど報道規制が厳しくなかった2015年に、共産党機関紙『人民日報』(電子版)が「習氏の月給は1万元を超える程度で、米高官との格差が大きい」という記事を出したことがある。その後の香港メディアなどの報道で、具体的な金額は1万1385元(約23万円)と確認された。これを単純計算すると年収にして280万円に満たない。約8年前の中国の生活水準からいっても、にわかには信じ難いこの数値がどれほど「実態」とかけ離れているか、今回はこの点に迫ってみたい。

「清貧」だった毛沢東

 建国の指導者、毛沢東(1893~1976年)の生活は政治――権謀術数と戦争以外は基本、読書とお茶とたばこで成り立っていた。毛の護衛責任者だった李銀橋(1927~2009年)の回顧録『人間毛沢東―最後の護衛長・李銀橋は語る』(権延赤著、竹内実監修、徳間書店、1990年)によれば、「あまりに清貧」だったという。毛への評価は割り引いて読む必要はあるが、金銭に関する描写は興味深い。

「当時、毛沢東の家庭の経済は、一定基準の食事が支給されるほか、毎月若干の現金が支給されていた。(中略)毛沢東が毎月受けとる二〇〇元近くと江青の一〇〇余元は、一貫して私が管理していた」

 それ以外の収入は、著述家としての原稿料で、毛は部下や同僚で生活に困っている者がいれば、原稿料の中から支出して援助したという。これは1950年代の話で、物価水準は今と比較しようもないが、大国の指導者の待遇としては確かにつつましい。

 だが、本書を含めてこうした中共幹部の「伝説」を読む時に注意が必要なのは、彼らの実際の生活環境だ。毛には常に専属の秘書、護衛、料理人、医療スタッフがいて四六時中、世話をしている。毛の生活が質素なのは、農村出身としての習慣がそうさせている部分が大きく、戦時の例外を除いて彼は党組織から手厚く守られており、生活には困っていない。

「毛沢東がちゃんと食事をとるときは、ふつう一汁四菜でした……しかしこうしたキチンとした食事をすることはそんなになかった。彼はすごく“気まぐれ”でしたから」(同書)

 毛は、もっと贅沢をしようと思えばいくらでもできたのである。

2014年に6割増し

 現代に戻ろう。

 では、いまの領導たちの給与はどうなのだろうか。実のところ、さまざまな過ちを犯したにせよ人民に親しまれ、人間味もある伝記が世に送り出された毛や周恩来(1898~1976年)、鄧小平(1904~1997年)といった革命世代と比べ、現役世代の方がはるかに味気なく、知りうる情報も少ない。

 中国の元公務員で、官界の上の方にもパイプがある知人のA氏に領導たちの給与について聞いてみたが、すぐさま返ってきた答えはこうである。

「それは大変難しいテーマです」

 だが、手がかりとなる資料はある。冒頭に挙げた2015年時点で習氏の月給が「1万1385元」というのは、当時の報道によると、2014年10月に「2006年以来初めて」政府の統一の給与改定が行われ、「7020元から6割の引き上げ」がなされた結果だという(この直後に「6割増しは誤解である」という当局の反論も報道されたのだが、その根拠は示されていない)。この改定の基になった「7020元(約14万円)」という2006年当時の給与体系の表は現在でも公開されている。

「公務員の旧制度の改革に関する国務院の通知」という政府文書で、それによると「公務員の基本給与は職務と等級別の2項目を調整して構成される」とある。

 

 上が「職務別」の給与体系表であり、一番上の「国家級正職」が、国家主席や党総書記、中央軍事委員会主席、首相、全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会委員長など、最高指導部メンバーが占める役職に当たる。党と政府、軍の役職はごちゃ混ぜになっている。そして「等級別」(1~27級)の基準表も付されており、1位の金額が3020元(約6万1000円)である(実は1位の中でも1~6段階のランク分けがされており、最大は6の3820元(約7万2000円)なのだが、ここではそこは問わない)。つまり、習氏の給料は職務の4000元(約8万1000円)+等級の3020元=7020元だったというわけだ。李克強首相や汪洋・人民政治協商会議主席もこれに準ずる。

        

 当時の政府は、この給与体系を改定、つまり昇給させ、さらに「国民経済の発展の度合いや財政状況」に合わせて、今後は原則として年に1~2回の見直しを行うと規定したのである。約8年たった現在、給与水準はそれなりにアップしただろう

 なお、一部のネット記事に、習氏は国家主席と党総書記、軍事委主席を兼ねているので、3職分を合計して年収は900万元近くになると臆測しているものもあるが、違うようである。

 A氏曰く「ダブル(トリプル)支給はありません」。

現在の月給は?

 さて、問題は現在の数字である。

「知りうる限りで」というA氏によると、近年の「上海市の庁局級幹部の月給が1万6000元(約32万円)、処級幹部が1万2000元(約24万円)」だという。「庁局級」は、中央の局長クラスや地方都市の首長クラスなどを指す。「処級」は中央の所長クラスや地方の局長などである。

 上の表に照らしてみると、2006年時点で「庁局級正職」かつ「領導」であれば、職務給は1410元(約2万8000円)であり、級別の給与額を習氏と同じ3020元と仮定すると4430元(約9万円)となる。2014年の改定で6割増しされたのであれば、約7000元(約14万円)だ。現状が1万6000元であるならば2倍以上に伸びたことになり、優遇と言える。

 ただ、いまの上海や北京といった大都市で家庭を持ち、それなりの水準の生活をして体面を保つとなれば、相場感として月2万元(約40万円)ぐらいは必要である。いささか心許ないと言わざるを得ない。

 一方、A氏によれば「省部級は3万8000元(約77万円)から4万5000元(約91万円)」だという。「省部級」は、中央省庁の大臣や省・直轄市のトップなどだ。ここまで来るとなかなかの待遇だが、そうなると約8年前の習氏の給料をはるかに上回る水準である。

 この間にそれほどの変動があったのか。一体、こうしたちぐはぐな数字に合理的な説明が付けられるのだろうか――。

公務員に対する手厚い補助・手当

 一つの答えは、公務員に対する手厚い補助・手当の存在である。幸いにもネットで削除されていない2014年の記事(中国語)はこう「告発」している。

「給料以外に、公務員には多種多様な名目の補助、手当があり、住居手当、冷暖房補助、交通費手当、有給休暇などがある。職場によっては無料の朝食とランチも提供している。コメや小麦、肉、タマゴ、油、野菜、果物を支給するケースもあり、体制内の人びとは一般市民が想像もできない福利厚生を受けている」

 公務にかこつけた接待、公用車の使用、国内外の出張費を「三公消費」というが、その使いようは「無制限である」とも指摘している(無制限の原文は「無底洞」=底なしの穴)。

 確かに筆者の経験でも、共産党や政府系関係者とつきあっていると時折、レストランなのか公共施設なのか、よく区別がつかない場所で食事をすることがある。広々とした部屋に、それなりの数のスタッフが給仕のために配置されており、サービスが行き届いている。値段の書かれたメニューなどはない。

 この記事は、住宅についても「公務員であれば136万元(約2760万円)のマンションを56万元(約1130万円)で入手できる」といった例を挙げ、また医療費や年金でも恵まれているとして、要するに「スーパー国民」の待遇だと憤慨しているのだ。

 とすれば、各部署や地方によって、周囲に漏れ伝わる金額が異なっていたとしても不思議はない。どの手当なり補助なりを織り込むかで、額はいかようにも変動するからだ。

 もちろん、近年は習指導部の反腐敗運動があり、かつてのような大っぴらな特権の行使はなりを潜めている。筆者も某国営メディア関係者に聞いたが、彼らですら以前のように忘年会で豪遊(総出で温泉に行ったそうである)することや、とくに外国メディアを相手に酒宴を開くことは御法度になっているらしい。

 しかし、公務員である以上、表向きはどうであれ「勝ち組」なのだ。

灰色の特権階級

 こう見てくると、いまの領導たちの生活も、基本は毛沢東時代とさして変わらないのではないか。給料はさほど多くなくても、さまざまなサービスが提供される。彼らは「赤色」(革命、社会主義)というより、限りなく「灰色(グレーゾーン)」の支配・特権階級である。ちなみに、習氏ら最高指導部メンバーが住んでいるのは北京・故宮の西隣にある「中南海」で、かつては皇帝の御苑だった区画である。毛沢東以来、ここが共産党・政府(国務院)の司令部と居住区を兼ねており、習氏らはそもそも住宅ローンなど気にする必要は全くないのである。

 こうした現象は、中国の伝統的な官僚体質も参考にすると分かりやすい。とくに明朝(1368~1644年)以降の中国では、科挙制度が完備され、大量の科挙官僚――エリート文官が輩出されるようになった。しかし、財政事情から彼らの基本給は低く押さえられていたので、さまざまな形の税のピンハネや賄賂、職権を乱用した蓄財が横行した。それらが公に咎められるケースは稀である。その結果、清朝(1644~1912年)時代には「3年まじめに地方官を務めれば、銀十万両ためられる(三年清知府、十万雪花銀)」といった有り様になった。ことさら悪辣なことをしなくとも「灰色収入」が大きいのだ。

 例えば、明朝で「土木の変」(1449年)の後にオイラトの侵攻を撃退した于謙(1398~1457年)のような本当に清廉な官僚(防衛大臣を務めた)は、冤罪で処刑された後の家宅捜索で「家に余分な財産がなかった」と史書に特記されるほど驚かれ、清朝で権勢を振るった官僚の和珅(1750~1799年)は、粛清後の没収財産が黄金を中心に政府歳入をはるかに上回ったという極端なケースも出てくる。汚職が摘発され、自宅や別荘から賄賂で得た大量の金銀財宝が見つかったなどという話は、習指導部が政権から排除した周永康元政治局常務委員や、徐才厚元中央軍事委副主席に通じる話である。王朝時代と共産中国の共通項は「官」である。

 習指導部はもう何年も反腐敗キャンペーンで汚職官僚を摘発しているが、尽きることは無い。中国の公務員の収入、生活の実態が以上のように「灰色」である限り、汚職は彼らが「権限」を行使する程度の問題に過ぎず――つまり、ちょっと羽目を外しすぎたか、周囲や上層部との関係がうまくいかなかったか、派閥争いに巻き込まれたか――なのであって、今後も取り締まりと新手の腐敗のいたちごっこが続くだろう。

総書記の報酬

 結局のところ、習氏の給料がいくらなのかというテーマは興味深いが、あまり意味をなさない問題とも言える。彼はドナルド・トランプ前米大統領のように、自身の名前を冠したタワーを建てたり、別荘マール・ア・ラーゴで富をひけらかしたりする必要もない。中南海の奥の院から、党と人民を「領導」する彼の生活を脅かす存在は、当面のところない。人民が非人道的な新型コロナウイルス対策「ゼロコロナ」でどれほど苦しもうとも、その叫びは取り巻き達に阻まれ、良心をさいなまされることもない。それが総書記の最大の給料――報酬なのである。

 

カテゴリ: 政治 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
竹内健二 共同通信社 中国総局特派員。1977年長野市生まれ。東京大学大学院綜合文化研究科(地域文化研究専攻)修了。2003年共同通信社入社。地方勤務を経て11年に経済部。19年から特派員として北京に赴任し、中国経済を担当。一般社団法人中国研究所『中国研究月報』編集委員。
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