「米中関税合意」の陰でアメリカが繰り出す対中圧力“あの手、この手”
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米中両国は5月12日に共同声明を発表、100%を超える異常な関税を引き下げることで合意した。破滅的な貿易戦争が回避される見込みが高まったと世界のマーケットには安堵感が広がった。もっとも、この共同声明で貿易戦争が終わったわけではない。むしろ、ようやく“始まった”というのが正しい見方だろう。
合意内容を見ると、米国は中国からの輸入品に対する関税を一時的に30%に引き下げたが、90日の間に交渉が妥結しなかった場合には、上乗せ分24%は復活する可能性がある。これはとどのつまり、4月初頭のトランプ関税そのままの内容、中国は何の譲歩も勝ち取れていない。報復関税のかけあいは米国にとって不利になる、異常な高関税が続けば米国は持たないなどと言われてきたが、結果を見れば、米国の言いなりに取引のテーブルに座らされたことに他ならない。
中国側も今後にシビアな交渉がひかえていることは覚悟しているようだ。合意発表翌日の5月13日、中国共産党の機関紙「人民日報」は、「平等な対話交渉を通じて意見の相違を解決する重要な一歩」と題する論評記事を発表した。著者名は「鐘声」(ジョンシェン)。これは「中宣」(ジョンシュエン)のかけことばで、中国共産党中央宣伝部のメッセージであることを示すペンネームだ。記事では「双方の努力により、重要な共通認識に達し、実質的な進展を遂げた」と成果を強調しつつも、「今後の道のりは平坦ではないかもしれない」と楽観論を戒めている。
90日後に24%の追加関税が復活して計54%となれば、昨年の大統領選でトランプが発言していた「60%」にほぼ匹敵する数字であり、中国の輸出は大きなダメージを受けるだろう。なんとしてでも合意が必要だが、そのために何を約束できるのかが問われる。
しかも、厄介なことに関税に関する話し合いが続く一方で、トランプ政権は関税以外での対中規制を続々と進めていくだろう。共同声明発表の翌日、米商務省は新たな半導体輸出規制を発表した。バイデン政権時代に定めたAI(人工知能)拡散ルール(中国以外の国に対しても、輸出できる半導体の数量を規制。中国への迂回輸出を警戒する内容)を撤回する一方で、先端半導体を中国に迂回輸出する、あるいは中国外のデータセンターで中国企業のAIモデルの学習を支援するなどの行為は、輸出管理規則に基づいて処罰するという内容だ。
特に強烈なのはファーウェイ製のAI半導体の利用を禁止するというガイドラインだ。

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