
フォーサイト会員限定の特別試乗会は2024年11月19日、東京都港区の「SHARE GREEN MINAMI AOYAMA」で開催された。日産とフォーサイト編集部のコラボは、2024年1月の「日産ヘリテージコレクション」特別見学ツアー以来2回目。前回は歴代の名車を目で見て楽しんだが、今回は自分で直接運転できるとあって、平日開催にもかかわらず多数の会員から応募があった。抽選の結果、選ばれたのは5名の会員。うち3名が予定通り参加した。
今回の試乗会に会員が熱い視線を送ったのは、「NISMOロードカー」の試乗ができる貴重な機会だったからだろう。「NISMO」は今年40周年を迎えた日産のモータースポーツブランド。日産は市販車ベースの国内最高峰レースである「スーパーGT」や、電気自動車のF1と呼ばれる「フォーミュラE」に参戦してきた歴史を持つが、過酷なレースシーンで培われた経験や技術を「NISMOロードカー」シリーズに注ぎ込んでいる。
今回の特別試乗会で用意されたのは、「GT-R NISMO Special edition」、「フェアレディZ NISMO」、「スカイラインNISMO」、「アリアNISMO」、「オーラNISMO」、軽の電気自動車「サクラ」の6車種。それぞれ展示車や試乗車を用意している販売店はあるが、これだけのラインナップを一カ所に集めて乗り比べられる機会は滅多にない。車好きの会員がこぞって応募したのもうなずける。

税込み車両価格30,613,000円「最高峰」カーの乗り心地
試乗に先立ち、日産担当者から6車種について簡単な説明が行われた。予定の試乗時間は2時間。時間内なら乗り換えもOK。たとえば約1時間ずつ2台を乗り比べてもいいし、短時間で3台、試乗会場のまわりを軽く流して感触を確かめてもいい。各車種の説明は、試乗車選びの参考になったはずだ。
1台目に「GT-R NISMO」を選んだのは、普段は海外調査コンサルタントをしている黒田知幸さん(64歳)だ。実は黒田さんは父親から83年式R30型スカイラインを譲り受けて以来、ずっとスカイラインオーナー。今回の試乗会はノーマルのスカイラインとNISMO仕様を乗り比べることが目的だったが、「それはさておき、まずは『GT-R NISMO』に乗ってみたかった」という。
試乗後に「GT-R NISMO」の感想を聞くと、「自分の車とは足回りが違って硬かった。時速100キロメートル以上なら安定しそう。高速で試したかった。あと内装は、さすが高価な車だなと(笑)」。ちなみに「GT-R NISMO Special edition」は税込みの車両本体価格が30,613,000円からと、今回のラインナップの中でもっとも高価。黒田さんは機能性とデザイン性を両立した内装にもご満悦の様子だった。

2台目に乗った「スカイラインNISMO」については、「踏み込んだ感じは、自分のノーマルよりNISMO仕様のほうが乗りやすい。『GT-R NISMO』は若い人でないと乗りこなせない印象でしたが、『スカイライン NISMO』はセダンだけあってファミリーでも楽しめる」とのこと。実は今回の試乗会には、黒田さんの奥さまも同行していた。助手席に乗った感想をうかがうと、「シートが揺れを吸収してくれているのか、乗っていて楽でした」。レースで培った技術は、スポーツカーのファンを満足させるだけではない。奥さまの表情からは、技術が家族で楽しむドライブにも活かされていることがうかがえた。
今回もっとも遠方から参加したのが、鹿児島県在住の浅井進一郎さん(62歳)だった。「当たるわけないとダメモトで応募したら、いい機会をもらえた」と空路で東京入り。1台目のチョイスは「スカイラインNISMO」だ。「名前は出しませんが、普段乗っている車はアクセルがリニアに反応しない。たとえるなら伸びたゴムを引っ張っている感じです。一方、『スカイラインNISMO』はオン・オフに素直に反応して、パワーももりもり。硬いゴムを引っ張って手を放すとバチッといくでしょ。あの感覚で、乗っていて楽しかったです」

2台目は「フェアレディZ NISMO」。「エンジンは『スカイラインNISMO』と同じ型式だそうですが、音はけっこう違いました。完全に個人の好みの問題ですが、私は『スカイラインNISMO』の音のほうが気に入りました」
わざわざ鹿児島から参加した価値はあったのか。そう質問すると、浅井さんは笑ってこう答えてくれた。「東京の道がよくわからなかったし、今日は操作を覚えたところで終わってしまった。短時間の街乗りでNISMOの実力を堪能できたのかどうか、自信はありません。次の機会がもらえるなら、車のポテンシャルをもっと引き出せるはず。また鹿児島から飛んできますよ!」

「日産らしい尖ったスポーツカーを出し続けて欲しい」
「今日は午後半休をもらってきました。サボッてきたわけじゃないので顔出しもOK」と試乗後のインタビューに応じてくれたのが村上隆晃さん(57歳)。昔からスポーツカーが好きで、今回の目当ては、やはり「GT-R NISMO」だった。「GT-Rは憧れのスポーツカー。一方、NISMOは日産が誇るモータースポーツブランドでしょ。両方が掛け合わさったらいったいどうなるのかと興味津々でした」
メインディッシュの前に選んだ1台目は「フェアレディZ NISMO」。「街乗りで難しかったですが、車間距離をゆったり取ったうえで、マニュアルで1、2速だけでエンジンを6000回転まで回したら、その一瞬でワープしたんじゃないかと感じるくらいに凄まじかった」。続けて2台目は本命の「GT-R NISMO」。1台目に試乗した時点ですでにテンションが高かったが、「Zがおとなしく感じるくらいに『GT-R NISMO』はすべてにおいて荒々しかった。GT-RとNISMOの掛け合わせは、最高峰のさらに向こう側でしたね」と輪をかけて興奮した様子だった。

スタートから2時間後、あたりがすっかり暗くなったところで試乗会は終了した。今回、参加者3名が選んだのは、すべて日産を象徴するスポーツカーだった。といっても、他の車種に関心がなかったわけではない。村上さんは「EVも乗りたかったですよ。ただ、今後スポーツカーもEVに移行していくでしょう。内燃機関のNISMOを楽しむなら今のうちかなと」と胸中を明かした。
最後に日産に伝えたいことはないかと尋ねると、「これからも日産らしい尖ったスポーツカーを出し続けて欲しい」(村上さん)、「スカイラインは一時、インフィニティのエンブレムをつけていた時期があります。ファンとして寂しかった。日産にはブランドを末永く継承してほしい」(黒田さん)と、日産への愛と期待が溢れるコメントが返ってきた。試乗会はメーカーがユーザーに車の魅力を伝えるだけではなく、ユーザーがメーカーに自らの声を届ける場でもある。思い思いに語る参加者の表情を見て、今回の試乗会イベントが成功裡に終わったことが確信できた。
