印パ危機に今のアメリカは何ができるか

Foresight World Watcher's 10 Tips

インドが軍事行動に乗り出す可能性は高いと見られる[反インド抗議デモでモディ首相に似せた人形を焼くパキスタン人民党(PPP)の活動家=2025年5月4日、パキスタン・ムルターン](C)AFP=時事

 インドとパキスタンの軍事的緊張が続きます。発端は4月22日、カシミール地方のインドが実効支配する地域で観光客26人が殺害されたテロ事件。同地方は「南アジアの火薬庫」と呼ばれ、英領インドからの印パ分離独立以来、その帰属をめぐって両国の対立が続いてきました。

 事件については、パキスタンを拠点とするイスラム過激派ラシュカレ・タイバ(LeT)の分派組織、抵抗戦線(TRF)が犯行声明を出しています。インドのモディ政権はパキスタンの関与を主張し強く非難、パキスタン側は関与を全面的に否定しています。

 アメリカは4月30日、マルコ・ルビオ国務長官が両国高官とそれぞれ協議、緊張の緩和を求めました。ともに核兵器保有国である印パの武力衝突が、国際社会にとって大きなリスクなのは明らかです。ただ、この問題についてアメリカは、もう一段複雑な立場に立っています。

 アメリカにとってパキスタンは、冷戦下ではソ連封じ込めの拠点として、2000年代の対テロ戦争期にはタリバンやアル・カーイダに対する掃討作戦のパートナーとして、地政学的に重要な意味合いを持ってきました。F-16戦闘機をはじめ武器も供給してきた経緯があります。

 一方で米-インド関係は、近年、防衛分野でも顕著に深化しています。対外援助削減に動いているトランプ政権ですが、パキスタンへの安全保障支援3億9700万ドルは削減対象から除外したと伝えられます。これがパキスタンへの配慮なのかと言えばそうではく、支援パッケージはF-16がインドに対して使われていないことを確認するものだからだと解説されます。

 マイク・ポンペオ国務長官(当時)が印パ双方と緊急連絡をとった2019年の印パ危機と較べると、今回は腰が重い印象も。ウクライナ、中東に外交交渉が続く中、印パ両国の仲介にリソースを割きにくいということもあるでしょう。この問題、日本で報じられているよりも、欧米の危機感はだいぶ高いように思います。

 印パ危機のほか、米国経済、米中関係、台湾、ウクライナの資源開発協定署名、ウォルツ大統領補佐官更迭、スペインとポルトガルの大停電――フォーサイト編集部が熟読したい海外メディア記事10本。よろしければご一緒に。

America may be just weeks away from a mighty economic shock【Economist/4月29日付】

「4月9日に多くの関税が発動される以前でさえ、アメリカの消費者と企業が懸念を抱えていることが調査により示されていた。ダラス連銀の調査によると、製造業の生産は4月に記録的な低水準に落ち込んだ。また、4月30日に発表されたデータでは、米国のGDP[国内総生産]が年率換算で0.3%縮小した。関税発動前に企業が外国製品の在庫を急増させたため、貿易赤字は拡大している」
「データ企業のビジョン[Vizion]によると、4月14日週の中国-アメリカ路線の新規予約は前年同期比で45%減少。フライトのキャンセルや減便は、全予定便の40%に達している。物流企業のフリートーズ[Freightos]によると、上海-ロサンゼルス間の輸送コストは過去1カ月の間にコンテナ1個あたりで約1000ドル下落した。企業が、関税を先取りする戦略から回避する戦略へと転換したためだ。ベトナムからアメリカへの貨物輸送コストは同じような幅で上昇しており、これは輸入業者が代替供給元を探していることを示している」

 トランプ関税が金融市場にもたらした乱流はすでに衆知のものとなっている。では、実態経済への影響は? ――この問いにヒントを示すのが、英「エコノミスト」誌の4月29日付の記事だ。

 同誌は、経済統計がコロナ禍による混乱の間に進化し、リアルタイムに近い実態の把握が可能になっていることを紹介。そうしたデータをいくつも並べて、米国と通商相手国との間でモノやヒトの流れがすでに大きく変化していることを示し、「アメリカは今のところまだ、自らが招いた貿易危機に直面しているわけではない。しかし、物流の見通しは良好ではない」との見方を打ち出す。

 エコノミスト誌の抱く危惧が最も端的に表れているのは、この記事のタイトルかもしれない――「わずか数週間後に経済ショックに見舞われるかもしれないアメリカ」。

Why China has the upper hand in its trade war with America【Economist/5月1日付】

 同誌は雑誌版5月3日号で台湾を切り口とした中国特集を組んでおり、サイト上でも中国関連の記事が目立っている。「なぜ中国はアメリカとの貿易戦争で優位にあるのか」(香港発、5月1日付)もそのうちの1本だ。

フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top