
防衛省、国土交通省が国会で否定した「偽情報」
4月10日、参議院外交防衛委員会で質問に立った自民党の佐藤正久議員は、ある書籍の内容を要約して読み上げた。
「駿河湾で試験中の護衛艦が対空ミサイル発射訓練をやっており、それを海自出身のJALの機長が海上自衛隊と組んで訓練に協力し、自衛隊の標的機がJAL123便を撃墜してしまった。横田基地への緊急着陸を自衛隊が禁止したばかりではなく、撃墜と墜落の痕跡を隠すためにわざと地点の特定を遅らせ、その間、自衛隊の火炎放射器で墜落現場を焼いて証拠を隠滅した――」
佐藤議員が右手に掲げていた書籍のタイトルは、『日航123便墜落の新事実 目撃証言から真相に迫る』(青山透子著、河出書房新社刊)。1985年8月12日に発生した日本航空123便墜落事故を扱った“ノンフィクション”だと称している。事故後、救助に向かった現場で4名の生存者を救出した自衛隊員らを犯人扱いする同書について、元自衛官の佐藤議員は「隊員の名誉のためにも放置できない」と、政府の認識を問い質した。
それに対し、まず高橋克法国土交通副大臣が、事故2年後に公表された調査報告書に基づき「事故原因については、後部圧力隔壁の不適切な修理に起因し、後部圧力隔壁が損壊したこと」で「ほぼ間違いない」と明言。続いて、中谷元防衛大臣が、「自衛隊が墜落に関与したということは断じてない」「このようなことは偽情報である」と、当該書籍の内容を真っ向から否定した。
〈自衛隊が民間人520名の命を奪った〉との妄想
佐藤議員はそれでも納得しない。というのも、大臣らが「偽情報」、つまりデマだと一刀両断にした上記の本も含め、同著者による同テーマの書籍がすでに7冊も発行されており(いずれも河出書房新社刊)、うち3冊が「全国学校図書館協議会(SLA)」の選定図書とされていたのだ。つまり、証拠もなく〈自衛隊が民間人520名の命を奪った〉と主張する本が、“学校図書館向けの優良図書”として推薦されていたことになる。
答弁に立った野中厚文部科学副大臣は、「学校図書館の性格に鑑みますと、図書自体が児童生徒の健全な教養の育成に資するものである必要があると考えております。文部科学省は当該団体(※SLAのこと)の所管ではございませんが、佐藤先生のご懸念について、防衛省等々の動向を踏まえ、当該団体にしっかりと伝えて参りたい」と約束した。
佐藤議員はなおも、SLAの現会長は「文部科学省の元大物次官」であると指摘し、「子供に害がある」本が選定図書とされたことへの対応を文科省に強く求めた。
天下りで処分、それでも東京国立博物館に居座り続けた“前科”
この文科省の“元大物次官”とは、銭谷眞美氏(75歳/1973年文部省入省)を指す。2009年に退官したが、2017年には文科省天下り問題をめぐって過去に遡り処分を受けた人物だ。

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