トランプ大統領の発言とアクション(5月15日~22日):台湾「戦略的曖昧さ」と共鳴するベッセント「戦略的不確実性」発言

トランプ政権とオバマ政権の「共通言語」
ドナルド・トランプ大統領とバラク・オバマ元大統領といえば、因縁の仲と言われて久しい。2人の関係に決定的な亀裂が走ったのは、2011年4月のホワイトハウス記者会夕食会だ。当時、トランプ氏はオバマ氏の出生証明の公表を執拗に求め、重い腰を上げたオバマ氏は公表に動く。
それから数日後に開かれたホワイトハウス夕食会で登壇したオバマ氏は、スポットライトを浴びながらトランプ氏を徹底的にこき下ろした。「最近、彼は批判を浴びているが、この出生証明書の問題を終わらせることを誰よりも喜び、誇りに思っているのがドナルドだろう。なぜなら、これでようやく、彼は本当に重要な問題に集中できる。例えば、月面着陸は本当に偽物だったのか、ロズウェル(墜落したUFOを米軍が回収したとされた場所)で何が起こったのか、といった問題についてだ」と語り、会場を笑いの渦に巻き込んだ。
トランプ氏は口元に笑みを絶やさずに聞いていたが、腸が煮えくり返ったに違いない。翌2012年の大統領選は出馬を見送ったが、その4年後に大方の予想を裏切り、米大統領選で雪辱を果たすことになる。2011年にトランプ氏を槍玉に挙げた当時、オバマ氏は「彼がホワイトハウスに変化をもたらすことは確かだ」と結んだが、奇しくもこの「予言」は的中。トランプ政権2期目を迎え、数々の政策を通じて、ホワイトハウスだけでなく世界に大きな変化をもたらしている。
ただ、氷炭相容れずの関係にある2人の戦略には、実は少なからぬ「共通言語」が認められる。5月12日に発表された米中通商協議の合意には、90日間にわたる115%の関税引き下げなどとともに、対話のメカニズム構築が含まれた。これは、前回の本コラムで指摘したように、ジョージ・W・ブッシュ政権で確立し、オバマ政権が引き継いだ「戦略経済対話(Strategic Economic Dialogue=SED、オバマ政権では「戦略・経済対話=S&ED」と表記)」の貿易版と言えよう。
また、スコット・ベッセント財務長官は、鉄鋼・アルミや自動車など個別の関税を維持したことについて「戦略的リバランス」と発言したが、これはオバマ時代の「リバランス政策」を思い出させる。もちろん、両者が使う「リバランス」の方向性は正反対だ。オバマ政権の「リバランス政策」は、アジア太平洋地域全体への米国の外交、経済、戦略資源の再配分であり、地域秩序の主導と中国を既存の秩序へ「取り込むこと」を目指した。一方、ベッセント氏の「戦略的リバランス」は、CNBCのインタビューで明言した通り、むしろコロナ禍で入手できなかった戦略必需品のデカップリング、つまり「切り離すこと」を目指している。特定の領域で中国との関係を意図的に切り離し、覇権争いでリードしようとする立場だ。
しかし両者の戦略は、アメリカという国家のリソースを「ポートフォリオ」に見立て、その「最適化」を図るという意味では、多くの共通点が見いだせるのではないだろうか。
「戦略的不確実性」と「戦略的曖昧さ」
トランプ政権の場合、自国の持つカードを最大限に活かし、目的達成に向け最適化する戦略を講じている。例えば、相互関税の場合は、世界最大の消費国というカードを切り札に、国際貿易体制の転換、そして戦略的リバランスを狙ったといえる。
これには、政権を支えるメンバーの影響が強く表れているのだろう【チャート1】。政府効率化省(DOGE)を率いるイーロン・マスク氏やAI(人工知能)・暗号資産責任者のデービッド・サックス氏など、いわゆるテクノリバタリアンのIT業界出身者は、常に目的達成へ向け最適化を意識する傾向にある。ソロス・ファンド・マネジメントで鍛え抜かれたベッセント氏も、投資収益の最適化なくして、アベノミクスで10億ドルも稼ぐことはできなかっただろう。

「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。