ポイント・アルファ
ポイント・アルファ (38)

胎動するゲームチェンジャー「南鳥島レアアース泥」――日米欧豪による新たなサプライチェーン|中村謙太郎・東京大学エネルギー・資源フロンティアセンター長(4)

執筆者:関瑶子 2026年5月8日
エリア: アジア
経済と軍事の戦略物資であるレアアースは、安全保障の観点からは「日本だけで完結する技術開発」が望ましいとの声もあるだろう。一方で、民間企業にとって深海資源開発は、コストやリスクの面でも容易ならざる取り組みだ。政府が地政学的な問題に対する戦略を明確にし、レアアース「脱中国」に動く同志国と連携を図りながら、民間企業がチャレンジしやすい制度と環境を作っていくことがカギになる。(聞き手:関瑶子)

 長野光と関瑶子のビデオクリエイター・ユニットが、現代のキーワードを掘り下げるYouTubeチャンネル「Point Alpha」。今回は、安全保障上のレアアースの役割や資源開発におけるルール、海外との共同開発について、東京大学大学院工学系研究科附属エネルギー・資源フロンティアセンター長の中村謙太郎氏に話を聞いた。 ※主な発言を抜粋・編集してあります。

日本が「供給の極」になる可能性

——レアアースは安全保障上の戦略物資と位置付けられています。

「安全保障には、経済的な安全保障と、軍事的な安全保障の2つの側面があると思います。そのいずれにも、レアアースは深く関わっていると言えます」

「まず、経済安全保障についてです。世界的なグリーン・トランスフォーメーション(以下、GX)、デジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)の潮流の中、GXに欠かせないグリーン・テクノロジーやDXを推進するために求められるハイテク機器には、レアアースが必要不可欠です」

「この先、GXとDXが進展していくことを考慮すると、それに伴いレアアースの需要は増加していくことが予測されます。今後の社会と経済を支える資源という意味で、レアアースは経済安全保障上、重要である、という文脈で語られることが多くなったと感じています」

「次に、軍事的な側面です。近年、AI(人工知能)などの先端技術を組み込んだハイテク兵器やドローンなどの新しい兵器が次々と登場し、すでに実戦での運用も進んでいます。こうした兵器の製造には、レアアースが不可欠です。レアアースと兵器が切っても切り離せない関係になっており、軍事的な安全保障の面でも、その重要性が改めて強く認識されていると思います」

「こうした背景から、米国をはじめとした欧米諸国は、レアアースの供給が中国に大きく依存している現状に強い危機感を抱いていると思いますし、それがレアアース供給網の見直し、いわゆる『脱中国化』に向けて、大きく舵を切り始めている理由になっていると推察します」

——南鳥島レアアース泥は、その「脱中国」の動きにどう関わってくるでしょうか。

「南鳥島周辺のEEZの海底には、希少な重希土類元素を含むレアアースを豊富に含む泥が大量に堆積しています。その資源量は、わずか2500平方キロメートルの領域(南鳥島EEZのわずか1%未満)に、酸化物換算で約1600万トンと見積もられ1、国別埋蔵量と比較すると中国、ブラジルに次いで第3位に相当します」

「現在、中国はレアアースの生産で70%の世界シェアを誇ります。さらに精錬工程では、世界シェアは90%以上。南鳥島レアアース泥を商業規模で採掘し、レアアースの国内生産にまで漕ぎつければ、日本が中国に対抗し得る存在となり、レアアース供給のもう一つの『極』となってもおかしくありません。そうなれば、世界のレアアースのサプライチェーンの大きな転換が訪れると考えられます」

EEZと公海で異なる資源開発のルール

——レアアース泥の採掘は、どのような制度のもとで進められるのでしょうか。

「EEZ内に関しては、陸上資源と同様、それぞれの国が個別の制度をつくっており、それに基づいて進められることになります」

「日本では、鉱業法が制定されています。この法律は、もともとは陸上資源を対象としていましたが、2011年の改正で海底資源開発に関する規定が明確に整備されました。EEZ内のレアアース泥の採掘についても、この鉱業法に則ったかたちで進められることになります」

「一方で、どの国の権利も及ばない公海内にも、海底資源は存在しています。そのような資源については、1994年に発効した国連海洋法条約によって『人類共通の資産』として扱うことが取り決められています」

「公海内の海底鉱資源は、国際海底機構(以下、ISA)が管理しています。ISAは、1994年に設立された国際機関で、国連海洋法条約に基づき国家の管轄が及ばない深海底とその海底にある資源を管理する役割を果たします。公海で資源開発をする場合は、ISAの許可が必要となります」

「EEZと公海では、資源開発における管理の主体やルールが異なるということです」

——レアアース泥の開発にあたり、新たなルールが設けられる可能性は?

「日本のEEZ内に限定すると、レアアース泥を含めた海底資源をどのように扱うかは、既に鉱業法に組み込まれています。したがって、日本国内で新たなルールを設定する必要はないでしょう」

「一方で、公海については、その可能性は十分に考えられます。国連海洋法条約では、マンガンノジュールやコバルトリッチクラスト2など、資源ごとに規則が定められています。したがって、今後、公海内のレアアース泥に関する規則が新たに制定されると予想されます」

「同志国との連携」で得られるメリット

——南鳥島レアアース泥の開発について、日本と海外の連携はどのようになっていくのでしょうか。

「2026年3月19日に開催が予定されている高市早苗首相とドナルド・トランプ米大統領による日米首脳会談では、南鳥島レアアース泥の日米共同開発について両国による確認がなされるのではないかと報道されています3

「海底石油開発やマンガンノジュールでの豊富な経験から、海底資源の開発について欧米の企業は高い技術を有しています。南鳥島レアアース泥の開発において、そのような欧米の企業の力を借りることは、非常に有効であると言えます」

「もちろん、安全保障の観点から『日本国内のみで完結する技術開発を目指すべきだ』という意見にも一理あります。しかし現実として、中国から独立したレアアースの新たなサプライチェーンを構築する動きは、日米欧豪などの同志国による国際連携によって進められています」

「そのため、こうした国々と協力することに安全保障上の大きな懸念があるとは考えにくく、むしろ合理的な選択肢と言えるのではないでしょうか」

「日本単独でゼロから立ち上げるよりも、すでに高度な技術を持つ欧米企業と手を組む方が、商業化に必要なコストと時間を確実に抑えることができます。事実、洋上風力発電などのインフラプロジェクトにおいても、これと同様の協業体制がとられています」

——今後、日本が南鳥島レアアース泥を含む深海資源を開発していく上で、政府や産業界に求められることがありましたら教えてください。

「レアアース泥をはじめとする海底資源は、地政学的な問題をはらんでいます。民間企業のみで対応できる問題ではないと認識しています」

「一方で、実際に開発を行うとなると、実行するのは民間企業となるはずです。政府が地政学的な問題に対する戦略を明確にし、それを元に深海資源開発に民間企業がチャレンジしやすくなるような制度を作っていくことが、重要ではないかと思います」

1 https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/foe/press/setnws_201804111048459750647382.html 

2 コバルトリッチクラスト:海山の斜面や頂部(主に水深800〜2400メートル)に分布する、岩盤表面に薄く堆積した金属層。コバルトやニッケルなどを高濃度で含み、電池や電子機器の材料として注目されている。

3 今回の日米首脳会談で、日米両政府は南鳥島周辺におけるレアアース泥の共同開発に関する覚書を締結した。

※2026年3月16日に収録

 

  • ◎中村謙太郎(なかむら・けんたろう)
  • 東京大学大学院工学系研究科附属エネルギー・資源フロンティアセンター長

1997年 山口大学理学部地質学鉱物科学科卒業。2004年 東京大学大学院工学系研究科地球システム工学専攻博士課程修了。博士(工学)。日本学術振興会特別研究員、東京大学大学院工学系研究科附属エネルギー・資源フロンティアセンター助教、海洋研究開発機構研究員、東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻准教授、東京大学大学院工学系研究科附属エネルギー・資源フロンティアセンター准教授、東京大学大学院工学系研究科附属エネルギー・資源フロンティアセンター教授などを経て、2024年より現職。2023年に「令和5年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞」を受賞。主な研究テーマは、海底鉱物資源の探査、鉱物資源の成因解明、地球-生命の共進化プロセスの探求。

カテゴリ: 環境・エネルギー
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執筆者プロフィール
関瑶子(せきようこ) ライター・ビデオクリエイター 早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。You Tubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。
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