[イラン戦争はどこまで続くか3]限られてゆく米国の選択肢、高まる長期消耗戦の可能性

執筆者:滋野井公季 2026年4月2日
エリア: 中東 北米
米国が戦争を「終わったこと」にしても、イランも湾岸諸国も、そしてイスラエルも、終わったとはみなさない可能性が高い[トランプ大統領(左)とピート・ヘグセス国防長官(右)、イラン攻撃開始以来、初めての閣議で=2026年3月26日](C)AFP=時事
米国が提示した停戦条件の核心は、「停戦後のイランの抑止力を削ること」だ。そしてイランの条件の核心は、「二度と攻撃されないことの政治的・戦略的保証」にある。つまり、両者は相手のエンドステート(最終的に実現したい状態)自体を否定しあっているがゆえに、停戦交渉は本質的には成立しない。しかし一方、米・イスラエルの弾薬制約は限界が近い。ここから導き出されるトランプの選択は「短期決戦に賭ける」と「軍事的勝利に満たない政治的幕引きを急ぐ」のどちらかだが、そのいずれも長期消耗戦に陥りやすい。トランプの狙いを裏切る3つのシナリオから検証する。

 

イスラエル、米国、イランそれぞれが描く戦争の「終点」

 3月4日付の第1稿「イラン戦争はどこまで続くか」では、米・イスラエル・イランの「制約条件」から戦争の時間軸を捉え、ミサイルと迎撃弾の消耗、米国の制度的・時間的制約、世界経済への波及が、戦争の期間を規定し得ると論じた。続く3月17日付の第2稿「イラン戦争はどこまで続くか2」では、その見立てを軌道修正し、戦争の重心が軍事施設から海上交通、エネルギー、生活インフラへ移り、イランが長期消耗戦へと勝利条件を組み替えつつある可能性、そして米国にとって地上戦が出口ではなく「悪夢の入口」になり得ることを論じた。

 そして3月27~28日、戦争はさらに二つの方向に広がった。イスラエルは27日、イラン最大の製鉄所2カ所と発電所、ブーシェフル原発近傍やアラク重水炉関連施設を攻撃した。これは標的が国家の産業基盤そのものへ広がり始めたことを意味する。他方で、これまで静観していたイエメンのフースィー派は28日、イラン戦争開戦後初めてイスラエルを攻撃し、今後も作戦を継続すると宣言した。これにより、テルアビブの戦線はイラン本土とレバノン正面に加えてイエメン正面にも開き、紅海とバーブ・ル=マンデブ海峡の海上交通リスクも再び前景化した。しかしその間、ワシントンの強硬姿勢は一直線ではなく、「48時間の最後通牒」は5日間の停止を経て、さらに10日間延期へと揺れ動いている。

 ここで重要なのは、戦争が縦にも横にも広がっていることではない。むしろ、こうしたエスカレーションが進むほど、各国の軍事目標が鮮明になり、妥協の余地は狭まるという点である。池内恵が言うように、テルアビブにとってのエンドステートはイラン国家の恒久的弱体化であり、ワシントンにとっての終点はイランの軍事力(と核能力)の最小化である。これに対して、テヘランの戦争目的は、体制の存続と将来の再攻撃を防ぐ国際的保証の獲得である。問題は、これら3つの終点が、同じ地平線上に並んでいないことである。第1稿で見たようにイスラエルは優位性が拡大するほど作戦継続の誘因を持ち、第2稿で見たようにイランは時間を引き延ばすほど世界経済へのコスト賦課を通じて交渉力を高め得る。

停戦交渉が「平行線」をたどる理由

 米国とイランが提示した停戦条件を並べると、この戦争で交渉が進みにくい理由はさらに明確になる。米側が準備中とされる15項目案の核心は、イランの核計画の解体、弾道ミサイル計画の制限、代理勢力への支援停止、そしてホルムズ海峡の開放にある。基本的にワシントンが求めているのは停戦ではなく、停戦後のテヘランの抑止力を大きく削ることである。

 これに対し、イラン側の5項目は、要人暗殺の停止、将来の再攻撃を防ぐ国際的保証、戦争被害の賠償、敵対行為の停止、そしてホルムズ海峡に対するイランの主権行使容認である。第2稿で言及したように、テヘランの終戦条件は3月中旬の時点で、より踏み込んだ形、すなわち「完全な保証=米軍のペルシャ湾岸地域撤退」にまで拡張されていた。要するにテヘランが求めているのは、武力行使の停止ではなく、イランが二度と攻撃されないことの政治的・戦略的保証である。

 ここで対立しているのは要求水準の高低ではない。相手のエンドステートそのものの否定である。テヘランにとってミサイル能力と代理勢力ネットワークは単なる軍事資産ではなく、体制存続を支える抑止力の根幹であり、停戦後の再攻撃に対する最低限の保険である以上、決して放棄することはできない(おそらくは新しい指導部のもとで核開発も抑止力として再定義される可能性も高い)。逆にワシントンにとっては、ホルムズ海峡の支配や、湾岸からの米軍後退を含意する「完全な保証」は、自らの地域秩序と抑止態勢の放棄に等しいため受け入れがたい。

 したがって、交渉は当面のあいだ前進ではなく平行線をたどるほかない。米国は戦争を終わらせたいが、みずからの目的を空洞化する条件では終わらせられない。イランは、戦争を(恒久的に)止めたいが、抑止と体制保証を失う条件では止められない。戦争の長期化を国家にとっての天恵だと捉えるイスラエルは、テヘランが立ち直れないほど弱体化しない限り停戦後の「再攻撃余地」を狭める妥協に不満を抱く。ここで、どちらかが本当に譲歩するには、単に交渉の場を設けるだけでは足りない。現在の戦局を、自分に有利な形で逆転させ、相手の期待を打ち砕いて初めて、譲歩の政治的空間が生まれる。ゆえに、いま進んでいるのは停戦のための交渉ではなく、相手の停戦条件を書き換えるための戦争なのである。

戦争のテンポが「弾薬の再装填」の速度を上回り始めた

 ここで再び前景化するのが、第1稿で示した「制約条件」である。ただし、いま効き始めているのは、単なる弾数の不足ではない。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
滋野井公季(しげのいこうき) 東京大学大学院情報学環・学際情報学府客員研究員、東京大学先端科学技術センター連携研究員 1991年生まれ。専門は国際政治、経済安全保障、イスラーム政治思想。同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程満期退学。アルジャジーラ研究所客員研究員、ハマド・ビン・ハリーファ大学人文社会科学研究科客員研究員、外務省専門分析員、コンラート・アデナウアー財団リサーチ・アソシエイト、政策研究大学院大学リサーチ・フェロー、東京大学公共政策大学院共同研究員などを経て現職。
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