[イラン戦争はどこまで続くか 2]「弾薬の残数レース」から「長期消耗戦」へ移行の兆し

執筆者:滋野井公季 2026年3月17日
エリア: 中東
「モザイク防衛」の体制により、革命防衛隊は指導部への斬首作戦を受けても地域ごとに抵抗を継続できる[2026年3月9日、イラン・テヘラン](C)AFP=時事
戦争の重心は軍事施設から、海上交通、エネルギー、生活インフラへと移っており、イランは相手の政治的・経済的耐久力を削る方向へと、「勝利の条件」を再計算した可能性が高い。米国には地上戦の誘惑が高まるが、アフガニスタン戦争とイラク戦争から教訓を得て分散・自律型の戦力運用体制を整えてきたイランは、長期消耗戦で対抗することになるだろう。米軍の限定的地上介入は最も危うい幻想になり得る。少なくとも、ここから先の局面では、イランに相対的な優位性が生まれる余地は小さくない。

 3月4日付の拙稿「[イラン戦争はどこまで続くか 1]米・イスラエル・イランの「制約条件」から見たシナリオ」では、米国は時間・弾薬・政治の制約から短期で出口を探す可能性が高く、イスラエルとイランにはそれぞれ長期戦の誘因があるものの、最終的には米・イスラエルの迎撃能力とイランの長距離攻撃能力の制約が、戦争終結のトリガーになり得ると論じた。あの時点での「弾薬の残数レース」は妥当な見立てだと考えているが、3月10日以後の展開は、その前提の修正を迫っている。

戦況の変化――戦争の重心は軍事施設から経済中枢へ

 象徴的なのは、これまで長距離戦に終始してきた米国の選択肢に地上要素が入り始めたことである。3月8日、米メディアはトランプ政権がイラン国内の高濃縮ウラン確保のため特殊部隊投入を検討していると伝えた。翌9日、トランプ自身は「まだ決断には程遠い」と述べたが、地上投入が議論の俎上に載ったこと自体は否定していない。さらに13日にイランの原油輸出の9割を処理するハールグ島を大規模攻撃する直前には、米海軍強襲揚陸艦トリポリと第31海兵遠征部隊(31st MEU)の中東派遣が報じられた。米当局者への取材に基づく報道によると、約2500人規模の増派は直ちに地上作戦を意味しないが、地域への大きな軍事的追加であるとされる。ただし、部隊はなおイラン近海まで1週間超を要する位置にあるという。

 現在、戦争の重心は軍事施設から、海上交通、エネルギー、そして生活インフラへと移っている。イランはホルムズ海峡を事実上閉鎖し、通常であれば世界の石油・LNG(液化天然ガス)の20%が通過するこの海峡の通航量は97%落ち込んだ。しかも現在の状況は、単純な「全面封鎖」というより、イラン海軍との調整を通じた選別的な通航統制に近い。各種報道によると、中国やインド、トルコなど一部の国には例外的な通航が認められている。つまりイランは、海峡を単に「閉じる」だけではなく、「誰を通し、誰を止めるか」を政治的に使う局面に入っている

ミサイル残数では測れなくなったイランの継戦能力――米国に「地上戦の誘惑」

 ここで重要なのは、イランが戦争の勝利条件を再計算した可能性である。国家存亡の危機に瀕するイランにとって選択肢は大きく二つあった。短期間に火力を集中して最大の混乱を作るか、あるいは持続的な圧力で相手の政治的・経済的耐久力を削るかである。現在の趨勢を見る限り、イランは後者に傾いているか、あるいは米・イスラエルの攻撃で長距離攻撃能力を損耗した結果として、後者を選ばざるを得なくなったと見るべきだろう。

カテゴリ: 軍事・防衛
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
滋野井公季(しげのいこうき) 東京大学大学院情報学環・学際情報学府客員研究員、東京大学先端科学技術センター連携研究員 1991年生まれ。専門は国際政治、経済安全保障、イスラーム政治思想。同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程満期退学。アルジャジーラ研究所客員研究員、ハマド・ビン・ハリーファ大学人文社会科学研究科客員研究員、外務省専門分析員、コンラート・アデナウアー財団リサーチ・アソシエイト、政策研究大学院大学リサーチ・フェロー、東京大学公共政策大学院共同研究員などを経て現職。
新潮Xへの統合について
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top