フランス地方選検証(下) 「過激化」する左翼、左翼に引きずられる左派

執筆者:国末憲人 2026年4月13日
タグ: フランス
エリア: ヨーロッパ
極左集団「反ファシスト若者防衛隊」との乱闘で死亡したネオナチ系極右活動家、カンタン・ドランクの追悼行進に集まった人々。他方で右翼「国民連合」は議員や支持者に対し、こうしたデモに参加しないよう呼びかけた [2026年2月21日、フランス・リヨン](C)AFP=時事
選挙を控えた今年2月、極左の若者たちとネオナチ系極右団体との間で発生した乱闘騒ぎで青年1名が死亡した。殺人事件として捜査を開始した当局は、極左集団「反ファシスト若者防衛隊」のメンバー11人を尋問したが、その中には左翼「不屈のフランス」の下院議員ラファエル・アルノーの秘書と元秘書が含まれた。直後の統一地方選で影響を受けたのは、「不屈」の候補にとどまらない。「不屈」と組むか、拒否するか。社会党をはじめとする左派はその姿勢を問われた結果、「不屈」と連携した候補の多数が破れている。

 

 近年のフランスの選挙で、人々の関心事の多くは毎度のごとく、右翼「国民連合」の動向である。なぜあれほどの支持を集めるのか、勢いがどこまで続くのか、将来政権を取るのではないか。しかし、3月15日と22日に投開票があったフランス統一地方選では、その主役の座が左翼「不屈のフランス」に移ったかのようだった。その前月に起きた出来事をきっかけに、「左翼の方が危険では」との疑念が広まったからである。

会場外の乱闘

「不屈のフランス」の欧州議会議員リマ・アサン(33)は、華やかな容姿と派手な活動ぶりから、時に最高実力者ジャン=リュック・メランション(74)以上の関心を集める左翼政治家である。シリア・アレッポ近くのパレスチナ難民キャンプに生まれ、10歳の時に家族を頼ってフランスに渡り、2010年に帰化した。反イスラエル、親ハマスの強硬な立場で知られ、その言動はしばしば物議を醸す。2024年7月には、欧州議会で人権委員会副委員長への就任を目指したものの、右派「レピュブリカン」(共和主義者)の議員フランソワ=グザヴィエ・ベラミ(40)の反対で就任を阻止されたことを根に持って「夜ゆっくり寝られるのも今のうちだ」とXでポストし、ベラミから検察に告訴された。一方で、一部の左翼系若者たちからは絶大なる支持を集める。2025年6月にはスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリ(23)とともに船でパレスチナ自治区ガザを目指し、イスラエル当局に拘束されて強制送還された。

 その彼女を招いて、「中東紛争を巡る欧州連合(EU)と欧州各国政府との関係」と題する講演会を、リヨン政治学院の学生団体が2月12日午後6時から、施設内の講堂で開催することになっていた9。その直前にあたる午後5時半ごろ、極右系の女性団体「ネメシス集団」の7人が門前で、「イスラム左翼主義者よ、学内から出て行け」と書かれた抗議の横断幕を掲げた。これに対し、極左の若者たち大勢が集まって横断幕を奪おうとし、女性たちに暴行を加えたのが、騒ぎの始まりである。女性たちを助けようと、ネオナチ系極右団体の青年たちが現場に駆けつけた。その1人がカンタン・ドランク(23)だった。

 リヨン検察局の発表や当時の映像10によると、数十人が入り乱れて互いに殴る蹴るの乱闘を繰り広げた後、極右はいったん退却した。ドランクは逃げ遅れ、路上に引き倒されて袋だたきに遭った。暴行に加わった全員が逃走した後、極右の1人が戻ってきて、倒れたまま動かないドランクを見つけた。ドランクは一時失った意識を取り戻したものの、記憶が定かでない様子だったという。立ち上がって2人で歩き出し、川を2つ越えて1キロあまり進んで仲間たちと合流したが、その時彼はすでに状態が悪化していたようである。

 ドランクは病院に搬送され、頭蓋骨骨折だと判明した。翌13日に脳死状態となり、脳損傷などで14日に死亡した。検死により、たとえすぐに搬送されていても命は助からなかっただろう、との結論となり、殺人事件として捜査が始まった。

 それから4日後、11人が尋問を受けた。その多くは、2025年に当局から解散を命じられたリヨンの極左集団「反ファシスト若者防衛隊」に所属していた。そのうちの1人が左翼「不屈のフランス」の国民議会(下院)議員ラファエル・アルノー(31)の秘書だったと判明し、さらにもう1人もアルノーの元秘書だと発覚して、事件は急に政治的な様相を見せた。

 アルノー自身が「反ファシスト若者防衛隊」の創設者の1人であり、

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
国末憲人(くにすえのりと) 東京大学先端科学技術研究センター特任教授、本誌特別編集委員 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、朝日新聞ヨーロッパ総局長などを歴任した。2024年1月より現職。著書に『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』(岩波書店)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)、『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『イラク戦争の深淵』『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)など多数。
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