マクロン「抑止力強化」演説は本当に「核軍縮の流れに反する」のか(下)

執筆者:岩間陽子 2026年4月11日
エリア: ヨーロッパ
日本はヨーロッパのなかで有志連合を課題ごとに組み替える柔軟性が必要になる[協力文書に署名したマクロン大統領(左)と高市早苗首相(右)=2026年4月1日、東京・赤坂迎賓館](C)EPA=時事
マクロン大統領は前回2020年の演説ですでに、ヨーロッパのためにフランスの抑止力を役立てる可能性に言及していた。ただし、その抑止の思想は、多種類の戦術核でエスカレーションの段階ごとに「均衡」を図るアメリカとは根本的な違いがある。今回の「核弾頭数を増やす」との発言も、中国、北朝鮮、ロシアが核軍拡を進める状況では当然の対応であり、核を究極の抑止の手段として位置付け、戦術的使用を拒絶するフランスの立場は変わっていないと言えるだろう。そして、「核の敷居」を高く維持するためにこそ必要な通常兵力の強化において、フランスは日本や韓国とのパートナーシップを求めている。

 

マクロン演説の抑止観――認識すべきは従来戦略との連続性

 実は欧州連邦論者の間では、フランスの核の「欧州化」のアイデアは決して新しくない。ドイツのヨシュカ・フィッシャー元外相は、以前から欧州安保の自律の必要性を説いており、ロシアによるウクライナ侵攻後には、ヨーロッパとしての核抑止力を持つ必要性を訴えるようになっていた。そのような流れの中で、今回のマクロン演説は、もっとヨーロッパの独立性、フランスの自律を高らか謳うのかと思っていたが、実際には内容は全く違っていた。

 まず、マクロン大統領は前回2020年の演説ですでに、ヨーロッパのためにフランスの抑止力を役立てる可能性に言及していたことを押さえておかねばならない。当時すでにマクロンは、仏の抑止力が「ヨーロッパ的次元」(European dimension)を持っていると言い、準備のできたヨーロッパのパートナーに「戦略的対話」と、仏抑止力部隊の演習に関係を持つことを提案していた。今回の特徴は、それが「前方抑止(forward deterrence)」という具体的な形で提示されたことである。仏核演習への通常戦力やシグナリングによる参加にとどまらず、仏戦略空軍が同盟国に展開する可能性をも示唆した。これは陸上での抑止力の運用地域をフランス本土の内側から欧州へと広げるものではあるが、フランスが独自に核兵器を使用する権限を手放すものではない。フランスの核抑止力が「我々の行動の自由と独立の究極の保証」であり、その使用の決断はフランス大統領一人が下すものであることは変わりない。また、領域的にどこが「レッドライン」であるかが曖昧であることには変わりない。

 実際、今回の核戦略は、これまでのフランスの長い継続性の中で出てきたものであり、新奇な点よりも連続性の方が強いことを認識しなければ、理解がおいつかない。フランスの伝統は

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
岩間陽子(いわまようこ) 政策研究大学院大学教授。京都大学法学部卒業、同大学院法学研究科博士課程修了。京都大学博士。京都大学助手、在ドイツ日本大使館専門調査員などを経て、2000年から政策研究大学院大学助教授。同大学准教授を経て、2009年より教授。専門はドイツを中心としたヨーロッパの政治外交史、安全保障、国際政治学。著書に『核の一九六八年体制と西ドイツ:』、『ドイツ再軍備』、『ヨーロッパ国際関係史』(共著)、『冷戦後のNATO』(共著)、『核共有の現実―NATOの経験と日本』、Joining the Non-Proliferation Treaty: Deterrence, Non-Proliferation and the American Alliance, (John Baylisと共編著、2018)などがある。安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会、法制審議会、内閣府国際政治経済懇談会など、多くの政府委員会等のメンバーも務める他、(財)平和・安全保障研究所研究委員、日経Think!エキスパート、毎日新聞書評欄「今週の本棚」・毎日新聞政治プレミア執筆者も務める。
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