妖怪がヨーロッパを徘徊している――ドナルド・トランプという名の妖怪だ。バイデン政権期間中もずっと、トランプという妖怪は地平線上に見え隠れしていたのだが、選挙戦に入りその姿は禍々しいばかりに明瞭になり、当選が発表されるや否や、破壊的な力を発揮し始めている。その最初の犠牲者がドイツの三党連立政権である。トランプ当選のその日のうちに、三党連立政権は事実上崩壊し、現在少数与党政権として運営している。
今回の三党連立はドイツ連邦共和国史上、かなり異例の組み合わせであった。戦後ごく初期を除いては、連邦共和国における政権は保守(キリスト教民主/社会同盟=CDU/CSU)と社会民主党(SPD)という二大政党にその他の小政党がからみ、ほとんどの期間2党連立で構成されてきた。1980年代に緑の党が登場するまでは、二大政党+1で政治が動いてきた。しかし、2000年代に入り、二大政党がじりじりと支持率を下げ、自由民主党(FDP)、緑の党に加え、旧共産党の左派党、さらに最近になって極右ドイツのための選択肢(AfD)、ポピュリスト政党で左派党から分離したザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟(BSW)などの小党が乱立する状態となっている。
三党連立政権の手足を縛った「債務ブレーキ」
これまで二大政党を軸に政権交代が起こり、時に大連立の期間がある、という連邦共和国政党政治の形がもはや見る影もなくなりつつある。
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