「1930年代化するドイツ」を襲うトランプ到来の破壊的な力

執筆者:岩間陽子 2024年11月21日
エリア: ヨーロッパ
急転直下の罷免の翌日、フランク=ヴァルター・シュタインマイヤー大統領(中央)をはさんで視線を交わすショルツ首相(左)とリントナー財務相(右)=2024年11月7日、ドイツ・ベルリン](C)AFP=時事
「時代の転換点」宣言以後、ショルツ政権はプロアクティブに対策を講じることに失敗した。アメリカに第2次トランプ政権が誕生すれば、防衛費増額が要求されることは予期できた。米大統領選直後に三党連立が崩壊した背景には、この問題があるだろう。インフラ投資の抑制は社会に不安感を醸成し、排外感情と反ユダヤ主義も強まるドイツの政治は、いま急速に「1930年代化」が進んでいる。トランプ到来で既存エリートへの不満が勢いを増す可能性は大きい。ドイツとヨーロッパはまさに崖っぷちに立っている。

 妖怪がヨーロッパを徘徊している――ドナルド・トランプという名の妖怪だ。バイデン政権期間中もずっと、トランプという妖怪は地平線上に見え隠れしていたのだが、選挙戦に入りその姿は禍々しいばかりに明瞭になり、当選が発表されるや否や、破壊的な力を発揮し始めている。その最初の犠牲者がドイツの三党連立政権である。トランプ当選のその日のうちに、三党連立政権は事実上崩壊し、現在少数与党政権として運営している。

 今回の三党連立はドイツ連邦共和国史上、かなり異例の組み合わせであった。戦後ごく初期を除いては、連邦共和国における政権は保守(キリスト教民主/社会同盟=CDU/CSU)と社会民主党(SPD)という二大政党にその他の小政党がからみ、ほとんどの期間2党連立で構成されてきた。1980年代に緑の党が登場するまでは、二大政党+1で政治が動いてきた。しかし、2000年代に入り、二大政党がじりじりと支持率を下げ、自由民主党(FDP)、緑の党に加え、旧共産党の左派党、さらに最近になって極右ドイツのための選択肢(AfD)、ポピュリスト政党で左派党から分離したザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟(BSW)などの小党が乱立する状態となっている。

 

三党連立政権の手足を縛った「債務ブレーキ」

 これまで二大政党を軸に政権交代が起こり、時に大連立の期間がある、という連邦共和国政党政治の形がもはや見る影もなくなりつつある。

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
岩間陽子(いわまようこ) 政策研究大学院大学教授。京都大学法学部卒業、同大学院法学研究科博士課程修了。京都大学博士。京都大学助手、在ドイツ日本大使館専門調査員などを経て、2000年から政策研究大学院大学助教授。同大学准教授を経て、2009年より教授。専門はドイツを中心としたヨーロッパの政治外交史、安全保障、国際政治学。著書に『核の一九六八年体制と西ドイツ:』、『ドイツ再軍備』、『ヨーロッパ国際関係史』(共著)、『冷戦後のNATO』(共著)、『核共有の現実―NATOの経験と日本』、Joining the Non-Proliferation Treaty: Deterrence, Non-Proliferation and the American Alliance, (John Baylisと共編著、2018)などがある。安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会、法制審議会、内閣府国際政治経済懇談会など、多くの政府委員会等のメンバーも務める他、(財)平和・安全保障研究所研究委員、日経Think!エキスパート、毎日新聞書評欄「今週の本棚」・毎日新聞政治プレミア執筆者も務める。
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