極右・ポピュリスト右派躍進の欧州議会選挙、その先に何が待っているか

執筆者:岩間陽子 2024年6月19日
タグ: EU
エリア: ヨーロッパ
自らが率いる政党「イタリアの同胞」が大躍進したメローニ伊首相は、EUの体制に対する影響力も増している[欧州議会選挙の結果を受けて記者会見するメローニ氏=2024年6月10日、イタリア・ローマ](C)AFP=時事
マクロン仏大統領は下院解散の危険な賭けに打って出た。緑の党の得票率低下が顕著なドイツでは、国民の(特に若者の)「気候変動・環境問題」離れと右派支持という政治意識の変化が見てとれる。EUレベルではフォンデアライエン委員長の続投問題とも絡み、政策面で「市民生活の優先」をより強く打ち出す必要に迫られるだろう。歴史的な意味合いを持ち得る欧州議会選挙の結果から今後を展望する。

 歴史に残る選挙となった。欧州議会選挙は、国民生活に直結する問題を扱うわけではないため、従来それほど関心を集めなかったのだが、今回は選挙前から注目を集めていた。ポピュリスト右派や極右の政党の躍進が予想されており、それにより今後のEU(欧州連合)レベル、各国レベルの政治が大きく影響されると見られていたからだ。

各政権の試練は仏下院解散、独の9月地方選など

 加盟27カ国それぞれで自国の制度で選挙が行われるため、全体的な影響を見通すのは容易ではないが、多くの国で極右やポピュリスト右派政党が躍進したのは事実である。最も顕著なのはフランスであり、第一党の地位を失ったエマニュエル・マクロン大統領は、仏下院解散の手に打って出た。このままでは政権の推進力が失われるばかりという判断の賭けであろうが、吉と出るか凶と出るか。かなり危険な賭けであることは否めない。かつてキャメロン英首相が保守派をまとめるために、ブレグジットの国民投票を宣言した時のことを、少なからぬ人が思い出したはずだ。

 中道左派三党の連立である、独ショルツ政権にも大きな打撃だ。与党3党すべてが得票率を減らしたが、その中で緑の党の-8.6%が最も大きな減り方であった。オラフ・ショルツ氏の政党である社会民主党(SPD)は-1.9%、自由民主党(FDP)は-0.2%となっている。野党で伝統的保守のCDU/CSU(キリスト教民主同盟/社会同盟)が30.0%で第一党だが、事前に中国スパイ問題など、いくつものスキャンダルに見舞われたにもかかわらず、極右のAfD(ドイツのための選択肢)が15.9%で第二政党の位置につけた。同じく右翼的な政策を掲げるBSW(ザラ・ヴァーゲンクネヒト同盟)と合わせると、右派の政党が22.1%を得たことになる。投票率は前回61.4%から上がって、64.8%とかなり高かったにもかかわらずである。……

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
岩間陽子(いわまようこ) 政策研究大学院大学教授。京都大学法学部卒業、同大学院法学研究科博士課程修了。京都大学博士。京都大学助手、在ドイツ日本大使館専門調査員などを経て、2000年から政策研究大学院大学助教授。同大学准教授を経て、2009年より教授。専門はドイツを中心としたヨーロッパの政治外交史、安全保障、国際政治学。著書に『核の一九六八年体制と西ドイツ:』、『ドイツ再軍備』、『ヨーロッパ国際関係史』(共著)、『冷戦後のNATO』(共著)、『核共有の現実―NATOの経験と日本』、Joining the Non-Proliferation Treaty: Deterrence, Non-Proliferation and the American Alliance, (John Baylisと共編著、2018)などがある。安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会、法制審議会、内閣府国際政治経済懇談会など、多くの政府委員会等のメンバーも務める他、(財)平和・安全保障研究所研究委員、日経Think!エキスパート、毎日新聞書評欄「今週の本棚」・毎日新聞政治プレミア執筆者も務める。
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