【特別インタビュー】パスカル・ペリノー仏パリ政治学院名誉教授(上)――欧州議会選で右翼ポピュリズムを後押しする「争点の国内化」
欧州議会選が6月6~9日、欧州連合(EU)加盟27カ国で実施され、右翼ポピュリズム勢力の大幅な伸張が予想されている。ロシア・ウクライナ戦争やイスラエル・ハマス戦争によって世界の緊張が高まる中で、欧州政治はどこに向かうのか。フランスでは、右翼「国民連合」が、大統領エマニュエル・マクロンの与党を大きく上回る支持を集め、2027年次期大統領選にも影響しそうな情勢である。
フランスを代表する政治学者であるパリ政治学院のパスカル・ペリノー名誉教授(73)は、欧州とフランスの選挙分析を進めるとともに、特に右翼の動向と支持の推移に関して、綿密な研究を続けてきた。パリに同氏を訪ね、情勢分析と今後の展望を聞いた。
野党の分裂に助けられている政権
――マクロン大統領が再選されて、すでに2年が過ぎました。
2022年前回の大統領選の決選投票では、現職のマクロンが、右翼「国民連合」のマリーヌ・ルペンに比較的大きい差をつけて、当選を決めました。この選挙は、2つの面で極めて例外的だったといえます。
第1の例外は、マクロンがフランス第5共和制で(初期のドゴールを除くと)初めて、コアビタシオンなしで再選を果たした大統領となったことです1。それは彼にとって、政治的な大成功でした。第2の例外は、マクロン与党が直後の総選挙で、絶対多数を50議席近く下回る議席しか確保できなかったことです。これは、第5共和制においてあまり想定されなかったことでした2。つまり、フランスの有権者は大統領選のわずか数週間後の総選挙で、大統領選とは異なるメッセージを発したのでした。
フランス第5共和制では唯一、ミッテラン再選後に発足したミシェル・ロカールの内閣が、国民議会(下院)の絶対多数を確保していませんでした。ただ、その時は10議席ほどを欠いていたに過ぎません。その程度なら駆け引きや交渉で何とかすることができる。しかし、今回のマクロンのように50議席も足りないと、そんな細工では間に合わないのです。
政権がこのような状態に陥ったことで、マクロンが目指した様々な改革も困難に直面しました。特に、年金改革を昨年押し通そうとした折には騒動となり、大規模な抗議デモが吹き荒れました。絶対多数を確保していないという政権の弱みに野党はつけ込み、デモを煽りました。
――マクロンは今後も、自らが考える政策を実行できないのでしょうか。
ただ、野党は単数形でなく、複数形です。かつて左右対立のころ、野党は1つでした。右が政権を取ると左が、左が政権を取ると右が、野党として機能したのです。今はしかし、そうではありません。
大統領与党は中道で、マクロンの政党「ルネサンス」(再生)と、元首相エドゥアール・フィリップの政党「オリゾン」(地平)、元国民教育相フランソワ・バイルーが率いる政党「モデム」で構成されています。これに対峙するのは、複数の野党です。
1つは国民連合です。ルペンが率いる多数の議員を国民議会に擁しています。当然ながら、マクロンの統治に協力するつもりなどありません。
2つ目は「共和主義者」です。右派共和主義政党である彼らは、マクロン与党に呑み込まれるのではと常に心配しています。従って、様々な改革で与党とかなり近い立場にあるにもかかわらず、協力しようとはしません。彼らは、マクロンと国民連合との間で立ち位置を探っています。
3つ目は……
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