新たな欧州の盟主か、メローニが主導する「ポスト・ポピュリズム」時代(下)

執筆者:国末憲人 2025年4月10日
エリア: ヨーロッパ
与党内の連立相手「フォルツァ・イタリア」と「同盟」の動向が鍵となる[メローニ首相(中央)とサルヴィーニ・副首相兼インフラ相(左)、ウルソ・ビジネス相(右)=2024年12月18日、イタリア・ローマ](C)EPA=時事
フランスの右翼マリーヌ・ルペンとは違い、メローニは官僚やエリートと連携する現実主義を通してきた。それは首相就任後の安定した政権運営も支えている。内政に足をとられるドイツ、フランスとは対照的に、イタリアが国際社会でここまで重きをなすのは「初めてかもしれない」と現地の識者は語った。ただし、それは連立与党の結束が前提だ。連立相手に新たな指導者が生まれれば、メローニ政権が揺らぐ可能性もあるだろう。【現地レポート】

 

EU唯一の安定政権として米欧の橋渡し

 メローニはその後、2012年に「イタリアの同胞」結成に参加し、14年からは党首を務めている。2022年の総選挙で勝利を収め、首相に就任した。

 イタリア政治取材が長い独紙『フランクフルター・アルゲマイネ』ローマ支局長のマティアス・ルエブ(62)が評価するのはむしろ、メローニがその後も政権を安定して運営している点である。

「2年以上を経て、彼女の政党は依然として力を保ち続けています。与党の中道右派連合内部だけでなく、イタリアの政党全体を見ても最も強い影響力を持っています」

 政党支持率は、「同胞」が30%近くを得ており、いずれも9%前後にとどまる連立相手のフォルツァ・イタリアや「同盟」を大きく凌ぐ6。これが、内閣での主導権確保をメローニに許し、閣内が結束を保つことにつながっている。

「また彼女自身への支持も40%程度あり、国内で最も人気の高い政治家の1人であり続けています。これは、戦後イタリアの政治ではあまりない現象です。ここでは通常、人気が急上昇して急降下する。そのいい例が、神童と言われた元首相のマッテオ・レンツィ(50)です。メローニに対しても、本来なら人々はもう飽きているはず。しかしそうはならず、彼女はパワフルで、高い信頼度を保ったままです。5年の任期を全うする勢いです」

 ルエブはまた、この政権基盤の強さが、欧州でのメローニの発言権も支えていると見る。

「EU内で安定政権はメローニ以外ありません。ドイツ首相のオラフ・ショルツ(66)は終わりですし、フランス大統領のエマニュエル・マクロン(47)もスペイン首相のペドロ・サンチェス(53)も弱体化している。メローニが強い立場にいるからこそ、トランプの米国と欧州との橋渡しをする役割も担えます。イタリアがこのような決定的な地位に立つのはたぶん初めて、あるいはベルルスコーニ以来といえるかもしれません」

「米欧の仲介役を務めるにあたっては、メローニが2023年、G7加盟国で唯一イタリアが参加していた中国の一帯一路構想からの離脱を通告したのも重要でした。中国に近すぎないと示すとともに、西側の一員であることを明らかにしたからです。彼女自身はこの出来事をあまり表に出そうとせず、『中国とも良好な関係を築いている』と言っていますが」

波乱要因は連立与党に

 一方で、メローニ政権がいつまでも安泰だとは、ルエブは考えていない。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
国末憲人(くにすえのりと) 東京大学先端科学技術研究センター特任教授、本誌特別編集委員 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、朝日新聞ヨーロッパ総局長などを歴任した。2024年1月より現職。著書に『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』(岩波書店)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)、『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『イラク戦争の深淵』『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)など多数。
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