トランプ政権支えるミレニアル世代の「破壊願望」その成り立ち

執筆者:杉田弘毅 2025年6月4日
エリア: 北米
トランプ政権を支える主要メンバーには、バンス副大統領(左から2人目)やミラー次席補佐官(後列右から2人目)など、ミレニアル世代が多く含まれる[トランプ大統領とエルサルバドルのナイブ・ブケレ大統領の二国間会談にて=2025年4月14日、米国・ワシントンDC](C)AFP=時事
映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』のコロンバイン高校銃乱射事件が1999年。21世紀のとば口に立ったアメリカは、9・11テロ、泥沼のアフガン・イラク戦争、リーマンショックと立て続けに大きな動揺を経験した。この「勝利」を見失った時代に成人したミレニアル世代は、戦争に巻き込まれるのをとにかく嫌う。「チェンジ!」を掲げたオバマの改革などセレブの自己満足だったと感じている。バンス副大統領ほか米政権中枢を占めるミレニアル世代が古いシステムに向ける怒りは強烈だ。それは当面、トランプの反エリート路線に親和的だが、期待が失望へと転じればアメリカ社会はさらに深い暗黒期を迎えるかもしれない。

 一律関税をはじめトランプ政権の過激な政策は、米国という国の「大きくスイングする性格」を象徴している。20年前には中東民主化を宣言してアフガニスタン、イラクと息せき切って軍事侵攻に踏み切り現地政権を次々と打倒したのに、今や「他国がどうなろうと我々には関係ない」と手を引く。1990年代にはグローバル化の恩恵で永久的な景気拡大「ニューエコノミー」を享受すると誇ったのに、今は米国と世界の経済システムは「持続不可能」と宣言して、独善的な改革に走る。初の黒人大統領バラク・オバマに熱狂した「変わるアメリカ」は、「白人主義」とも一部で言われるドナルド・トランプを2度選び、退行にも見える国家改造を目指す。改革へのファナティックな熱意は米国の特性なのだが、それにしてもなぜこれほどスイングするのか。一つの解析は新世代の出現による古いシステムに対する破壊欲求と言えよう。

 もうすぐ79歳になる史上最年長の米大統領トランプの政策を支えるのは40歳前後の若手の賢者であるのはよく知られている。フォーサイト (3月28日配信)で指摘した通り、頭に浮かぶだけでも副大統領J・D・バンス(40)、大統領経済諮問委員会(CEA)委員長で新プラザ合意を構想するスティーブン・ミラン(40~41=1984年生まれだが誕生日不詳)、不法移民の強制送還に辣腕を振るう次席補佐官スティーブン・ミラー(39)、春に来日しトランプ政権の政策意義を説明した経済専門家オレン・キャス(41)もそうだ。そしてヘリテージ財団でプロジェクト2025をまとめ今は政権の行政管理予算局長であるラッセル・ボート(49)も少し年長だがこの世代に近い。

 40代の大統領が第二次大戦後だけでもケネディ、クリントン、オバマと次々と登場した米国だけに若い世代が政策を担うのは珍しくない。だが、今トランプを支えるこの世代は「米国の偉大さ」を否定し、「アメリカの夢」など知らない、という新たな米国人だ。彼らの世界観は、われわれが冷戦中、冷戦後を通して常識と思ってきた覇権国米国のものとは違い、大国による世界の分割統治を思い描く冷めたものだ。孤立か関与かという思想的な対立でなく、もはや「普通の国」であるアメリカが世界中を監視するのはおかしい、という現実主義でもある。

 これからの米国の政策遂行をこの新アメリカ人が担う。戦後長く続いた、世界のことはすべて任せろ、と言わんばかりの米国の唯我独尊に慣れ、頼ってきた日本の政策も変容が迫られる。

「勝利のアメリカ」を知らない世代

 米国では世代群を区切り、各世代が抱く社会観、世界観を分析し国家の行方を論じる試みが盛んだ。オバマの選挙戦を追った拙著『アメリカはなぜ変われるのか』(ちくま新書)でも指摘したのだが、人格形成期に起きた国内、世界の大事件、さらにその結果起きた新しい環境の中で成長することで、世界観が育まれ、その世代が中軸になると国家の方向性が時に大きく変わる。戦後生まれの最初の世代であるベビーブーマー世代にとって、ケネディ大統領の暗殺(1963年)や公民権運動、ベトナム戦争が決定的な意味を持つのがその例だ。

 現在40歳代のトランプ政権を支える人材たちは、ミレニアル世代と呼ばれる。千年紀(ミレニアム)の変わり目である西暦2000年代に社会進出した人々であり、1981年から1996年に生まれた人々を指す。

 これまではベビーブーマー世代(1946~64年生まれ)がもっとも人口が多く、よって社会を変えるインパクトも大きかった。この辺は日本の団塊の世代と同じだ。ブーマーの子世代であるミレニアルは2010年代の後半に人口でブーマーを追い越し、年齢も社会の中核層となり今やもっとも影響力を及ぼす世代となった。米国の将来を決める力を持つ世代である。

 この世代の特徴は、それまでの国民的功績である第二次世界大戦の勝利、超大国としての出現、公民権運動や女性の進出など自由民主主義の発展、冷戦勝利といった「勝利のアメリカ」を体験していない。むしろ1999年に起きたコロンバイン高校(コロラド州)での生徒二人による大量射殺とそれ以降の学校乱射事件の続発、9・11テロ、泥沼のアフガン・イラク戦争、リーマンショックとその後の格差の広がり、政治・社会・人種の分断、さらには膨大な学生ローンなど、深い暗みにはまる米国を生きてきた。

 ブーマー世代も青年時代には史上初の敗戦となったベトナム戦争やウォーターゲート事件の大混乱を経験しているが、自らが声を上げることでこれらの問題を解決して前進したという「勝利」の意識があるという。

とにかく米国が戦争に巻き込まれるのが嫌い

 ミレニアル世代は、泥沼の対テロ戦争や、グローバル化で工場が中国やメキシコに移った産業空洞化の帰結として、世界とのかかわりにおいて当然抑制的になる。シカゴ地球問題評議会が定期的に行っている世代別の世論調査が興味深い。

 2023年9月の調査ではブーマー世代や戦中派であるサイレント世代(1928~45年生まれ)の3分の2以上が、世界へ積極的にかかわることが「米国の最善の政策」であると言うのに対して、ミレニアルやその後のZ世代(1997~2013年生まれ)ではそれが半数にしかとどかない。ミレニアルの前のX世代(1965~1980年生まれ)も54%、全世代平均では57%である。

 国際紛争への米軍投入を否定する点は際立つ。「ロシアがドイツのようなNATO加盟国に侵攻した場合」「北朝鮮が韓国に侵攻した場合」「中国が領土獲得のために日本との対立で軍事力を使用した場合」のケースで、米軍投入を支持するかとの質問に対して、ミレニアル世代の支持はいずれももっとも少ない。ドイツのケースでは全世代平均64%に対してミレニアルは52%、韓国のケースでは全世代50%に対してミレニアルは44%、日本のケースでは全世代43%、ミレニアルは37%である。

 若い世代ほど、戦争が起きると実際に兵士として戦場に送られる不安などからこうした結果が出るのかと推測もできるが、上記のドイツ、韓国、日本支援のための米軍投入はミレニアルより若いZ世代の方が支持は多い。ミレニアル世代はとにかく米国が戦争に巻き込まれるのが嫌いだ。筆者はイラク戦争の最中にオハイオ州の大学で学生を何人かインタビューしたが、兵士として戦争に行った友人の話を多数聞いた。戦争が身近なミレニアル世代の軍事介入への拒否感が分かる。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
杉田弘毅(すぎたひろき) ジャーナリスト・明治大学特任教授。1957年生まれ。一橋大学を卒業後、共同通信社でテヘラン支局長、ワシントン特派員、ワシントン支局長、論説委員長などを経て現在客員論説委員。多彩な言論活動で国際報道の質を高めたとして、2021年度日本記者クラブ賞受賞。BS朝日「日曜スクープ」アンカー兼務。安倍ジャーナリスト・フェローシップ選考委員、国際新聞編集者協会理事などを歴任。著書に『検証 非核の選択』(岩波書店)、『アメリカはなぜ変われるのか』(ちくま新書)、『入門 トランプ政権』(共同通信社)、『「ポスト・グローバル時代」の地政学』(新潮選書)、『アメリカの制裁外交』(岩波新書)『国際報道を問いなおす』(ちくま新書)など。
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