イラン戦争は中東の因縁や脆弱なエネルギー安全保障、米国と同盟国の冷たいバトルといった世界の政治・経済の伏流を容赦なく表ざたにした。もう一つ不透明なのが秋の中間選挙、そして2028年大統領選挙という米国内政への影響だ。ポスト・トランプの政治枠組みに向けて動きだしている政界は、泥沼化の瀬戸際にあるこの戦争をどう乗り越えるのだろうか。国防総省の提示とともに始まった巨額なイラン戦費、そして42%増という国防予算要求の攻防は、この戦争の是非とともに、トランプ大統領への不満、そして28年大統領選を目指す有力者たちの闘いの舞台となりそうだ。
「2000億ドル」追加予算は長期の地上戦を想定?
高市早苗首相が無難にこなした3月19日のホワイトハウスでのドナルド・トランプ大統領との会談には、もう一つのドラマがあった。米メディアは、執務室で首相を迎えたトランプに対日政策とは関係ない厳しい質問を浴びせた。イラン戦争の戦費についてである。前日のワシントン・ポスト紙電子版が、政権はイラン戦争に伴う追加予算として2000億ドル(32兆円)を米議会に要求すると特ダネを報じたからだ。この追加予算は予算教書で示された国防費とは別建てだ。米軍の爆撃映像は喝采を浴びがちだが、こうした巨額の税金が使われるとなれば、果たして何のための戦争か、と国民は急に冷淡になる。
トランプは「イラン戦争を超えて予算が必要だ。世界では今何が起こるか分からないのだ。兵器の力はものすごい。米軍は常に最良の状態であるべきなのだ」と長々と説明した。2000億ドルとは一家族当たり2300ドル(36万8000円)の負担となる。到底認められないと言う野党民主党だけでなく、共和党からも「私の想像よりもはるかに高額だ。どういう内訳なのか」(スーザン・コリンズ上院歳出委員長)との声が上がっていた。
米軍事評論家のマイケル・オハンロンによると、50万人の兵員を動員した湾岸戦争(1991年)でさえ米国の戦費は1500億ドル、泥沼と化したイラク戦争(2003~11年)は1年間で平均1350億ドルを使ったと言われる。
これらの戦争は大規模な地上戦に突入したのだが、空からの爆撃だけであれば、コソボ空爆(1999年)は100億ドル、「イスラム国」(IS)への作戦(2014~19年)も1年当たり100億ドル未満だったという。国防総省はイラン戦争では最初の1週間で113億ドルを使ったと米議会に報告している。開戦から1カ月の時点で1日当たり10億ドルを使っているとの推計も伝えられている。
歴代米政権が空爆を好むのは、兵士の犠牲の確率が低いことに加えて戦費が段違いに少なくてすむからだ。2000億ドルと言えば、空爆だけでなく、湾岸戦争やイラク戦争のような大規模な部隊を上陸させてテヘランまで攻め上がる長期間の地上戦を想定していると想像せざるを得ない。海兵隊が中東に到着し、加えて陸軍空挺師団の派遣命令も報じられ、少なくとも限定的な地上戦の態勢は整い出した。
「弾切れ」で米防衛産業の再建も加速
この2000億ドルの追加予算は、トランプが言う通り、「イラン戦争を超えた」ものだ。ロシア・ウクライナ戦争やイラン戦争が明るみにだした米国の「弾切れ」問題は深刻だ。
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