トランプ政権「西半球覇権主義」に覗くルビオ国務長官の「ネオコン性」――ベネズエラ攻撃なら、その次はキューバ? 

執筆者:杉田弘毅 2025年12月13日
エリア: 中南米
ベネズエラに対する作戦の成否は、次期大統領候補ルビオの政治生命を決める分岐点に[閣議で発言するルビオ国務長官(左)=2025年12月2日](C)AFP=時事
第二次トランプ政権の国家防衛戦略(NSS)では西半球重視の方針が明確だ。かつては米国の「裏庭」だった中南米だが、南米の貿易相手はすでに中国が最上位。米国の偵察に使える地域の宇宙関連インフラにも中国の浸透が進んでいる。ここでの卓越した地位を回復するために反米政権打倒も辞さぬことは、ベネズエラへの軍事作戦に頻繁に言及するトランプ大統領の姿勢が示している。このMAGAとは矛盾する介入主義を外交・安保政策に組み込んだのは、ネオコン的な傾向が根にあるルビオ国務長官だと考えられる。

 

米海軍の4分の1がカリブ海に集結

 ドナルド・トランプ米大統領は世界最大の空母ジェラルド・フォードをはじめ米海軍の25%をカリブ海に集結させて軍事圧力をかけている。兵員は艦船上に8000人、プエルトリコ島など陸上に7000人の合計1万5000人が集結した。9月からは麻薬運搬船の爆撃を開始し、戦争犯罪と疑われる乗船者の殺害も強行している。中央情報局(CIA)の秘密工作にもゴーサインを出し、12月10日にはベネズエラ沖で大型タンカーも拿捕した。

 麻薬対策や独立国の政権交代への正規軍投入のシナリオには米軍内で反論も出ており、作戦を統括するアルビン・ホルシー南方軍司令官が10月に入り、任期途中で後任も決まらないまま12月で辞任する意向を発表した。不満を告げたため解任されたと報じられている。

 カリブ海に集結した米兵力は人口3000万人弱のベネズエラを征服するのに必要な最低人員の10分の1程度であるため、トランプの狙いは軍事圧力をかけることでマドゥロが退陣・亡命することだろう。実際、トランプは11月末にはマドゥロと電話会談も行い、対面会談の可能性も探っている。

 トランプがベネズエラを狙うのはいくつもの理由がある。

「四半世紀で42倍」になった中南米の対中貿易

 他国の大統領を軍事圧力で追放するとはカウボーイ映画の世界だ。米国はイラク戦争で外部からの介入が成功しないという教訓を学んだはずなのに「西半球」は違うとの戦略を掲げる。

 12月5日までに発表された第二次政権の国家安全保障戦略は、モンロー主義の復活を唱えて「西半球に属していない競合勢力が我々の西半球に軍事力やその他の脅威となる能力を配備したり、戦略的な重要な資産を所有・支配することを拒否する」と述べている。「非西半球国家が我々の不利益、害悪となるような侵入を既に行っており、追い出さないのは間違いだった」と敵意をむき出しにしている。

 

 非西半球国家とは中国にほかならない。国家安全保障戦略は国務省政策企画室長だったマイケル・アントンが8月末に書き上げ、その後反論を入れて修正されたというが、西半球重視と中国排除の方針は変わらなかった。

 中南米における中国の進出には誰もが驚嘆する。

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
杉田弘毅(すぎたひろき) ジャーナリスト・明治大学特任教授。1957年生まれ。一橋大学を卒業後、共同通信社でテヘラン支局長、ワシントン特派員、ワシントン支局長、論説委員長などを経て現在客員論説委員。多彩な言論活動で国際報道の質を高めたとして、2021年度日本記者クラブ賞受賞。BS朝日「日曜スクープ」アンカー兼務。安倍ジャーナリスト・フェローシップ選考委員、国際新聞編集者協会理事などを歴任。著書に『検証 非核の選択』(岩波書店)、『アメリカはなぜ変われるのか』(ちくま新書)、『入門 トランプ政権』(共同通信社)、『「ポスト・グローバル時代」の地政学』(新潮選書)、『アメリカの制裁外交』(岩波新書)『国際報道を問いなおす』(ちくま新書)など。
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