
韓国の新大統領となった李在明(イ・ジェミョン)氏のこれまでの発言や選挙公約を総合的に見ると、歴代大統領に比べて北朝鮮問題への関心が低いのは間違いなかろう。とりわけ、両親が北朝鮮地域の出身だった文在寅(ムン・ジェイン)氏のような「進歩」派大統領とは異なり、北朝鮮への思い入れは少ないようだ。
南北朝鮮がそれぞれ建国して77年の時間が経過し、離散家族問題も過去のものになりつつある。韓国における各種の世論調査は、北朝鮮との「統一」に対する関心の低下を明確に示しており、「実用主義」を連呼し、ポピュリストとの評価が定まる李在明大統領はそれに対応しているものと考えられる。また、国政で外交に携わった経験がないことも影響しているだろう。
兵器実験を控える理由は消えたが
就任演説では、北朝鮮について少しだけ触れられた。
「北朝鮮のGDP(国内総生産)の2倍に達する国防費と世界5位の軍事力に、韓米軍事同盟を基盤とした強力な抑止力で北朝鮮の核と軍事挑発に備えますが、北朝鮮との疎通の窓口を開き、対話、協力を通じて朝鮮半島の平和を構築します」
米韓同盟、さらには日米韓3カ国の協力への言及や「抑止力」の部分だけを切り取ると、さながら「保守」派大統領のようだが、「共に民主党」が生んだ政権である以上、もちろんのこと尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権のような強硬姿勢を取ることは考えにくい。
そうなると、北朝鮮としては従来通りミサイル発射実験や、長らく停滞している偵察衛星の打ち上げなども堂々と行うことができるフェーズに戻ったと言える。今年、北朝鮮では「国防科学発展および兵器体系開発5カ年計画」の最終年を迎えており、成果の獲得が急がれている。にもかかわらず、ミサイル発射実験の回数は昨年までに比べて激減した。尹錫悦前大統領による戒厳令宣布以降、韓国政治が流動化する中で、北朝鮮が兵器実験によって韓国の保守派を勢いづかせることを避けたものと考えられる。
また、ロシアに対して大量の兵器を輸出し、派兵までしている現状において、韓国との緊張を高めることは好ましいとも言えない。北朝鮮史上稀に見る突然の好景気、戦争特需にあやかった方が良いとの判断である。
実現可能性は限りなくゼロに近い南北首脳会談
北朝鮮にとっては、尹錫悦氏に比べれば格段に安心感が高まったと言えるが、2018年以来となる南北首脳会談の実現可能性について述べるならば、現地点では限りなくゼロに近い。首脳会談どころか南北が十分な意思疎通を図れるかどうかすら疑問である。

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