やっぱり残るは食欲
やっぱり残るは食欲

アスパラ変遷記

執筆者:阿川佐和子 2025年6月3日
タグ: 日本
白アスパラはシャキシャキしておいしいですよね(写真はイメージです)

 白アスパラの季節がやってきた。

 なんてね。ちょいと偉そうに言ってみましたが、生の白アスパラを春に食べたいと思うようになったのは、ごく最近のことである。

 二十年ほど昔、イタリアンレストランにて、「白アスパラが入荷しましたが、いかがですか?」と勧められて食べたのが最初かもしれない。生の白いアスパラガスってものがあるのか。しかもこんなにシャキシャキしておいしいんだ。おおいに驚いた記憶がある。

 それまで生のアスパラといえば緑色のアスパラガスしか知らなかった。さらに遡る私の子ども時代には、アスパラガスは缶詰しかなかった。缶詰のアスパラガスは白かった。というか、今でも白い。だからグリーンアスパラガスが出現したときは、新鮮な生のアスパラガスは緑色で、缶詰にすると白くなるのかと思っていた。

 釈迦に説法と知りつつ解説いたしますに、グリーンアスパラガスとホワイトアスパラガスはたしかに同じ品種である。ただ栽培方法が異なる。太陽にたっぷり当てて育てるとグリーンになり、あえて日の光が当たらぬよう若芽に土をかぶせたり遮光フィルムをかけたりして育てるとホワイトになるということらしい。もやしと同じ原理か。それにしても太陽に当たらずにどうしてこれほどシャキシャキとおいしくなるのだろう。「もやしのようなオトコ」と言われたら、どう考えても頑強なイメージは湧かないが、本当のもやしは栄養価が高いという。しかも安い。物価高騰のこのご時世においても、もやしだけは安い。生産者の皆さんに申し訳ないと思うほどだ。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
阿川佐和子(あがわさわこ) 1953年東京生まれ。報道番組のキャスターを務めた後に渡米。帰国後、エッセイスト、小説家として活躍。『ああ言えばこう食う』(集英社、檀ふみとの共著)で講談社エッセイ賞、『ウメ子』(小学館)で坪田譲治文学賞、『婚約のあとで』(新潮社)で島清恋愛文学賞を受賞。他に『うからはらから』、『レシピの役には立ちません』(ともに新潮社)、『正義のセ』(KADOKAWA)、『聞く力』(文藝春秋)など。
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