やっぱり残るは食欲
やっぱり残るは食欲

あぶらの歌

執筆者:阿川佐和子 2026年2月12日
タグ: 日本
エリア: アジア
オリーブオイルはパスタ、スープ、パンなど様々な料理に合う(写真はイメージです)

 台所の戸棚を覗いたら、奥からココナッツオイルの瓶が出てきた。未開栓である。とはいえ、だいぶ前のものだ。賞味期限は……、言わないでおこう。

 私の家の台所からはこの手のビンテージものが数多く出てくる。スーパーでなんとなく使いたくなって買ってみたものの、使わないうちにいつしか戸棚の奥にその姿を消して、ついでに買った当人の脳からも消え失せる。

 でもココナッツオイルに関してはかろうじて記憶があった。いっとき流行ったのだ。ココナッツオイルは認知症や動脈硬化の予防になるとメディアでさかんに謳われていた。中鎖脂肪酸が豊富で素早くエネルギーになり、酸化しにくいので血管の壁などに堆積しない。炒め物に使っても、パンに塗ってもコーヒーなどの飲料に入れても、そのまま舐めても問題なし。身体にいいという。さっそく私はココナッツオイルをいくつも買い込んだ。これからはココナッツオイルにしよう。

 しかもココナッツの香りは南国の島を想起させる。口に含むたび、ああ、ハワイ〜という気分になって、のどかなハワイアンミュージックが頭の中で流れ出す。いいねいいね。

 買った当初はさかんに摂取した。毎朝スプーン一杯舐めたり、炒め物のときに使ったりした。しかし「身体にいい」と言われるものは、いずれブームが去る。いや、ずっと使い続けている人もいらっしゃるでしょうが、私のブームはだいたい数ヶ月が限度。いつしかもとの生活に戻ってしまう。

 でもこのたびせっかく戸棚から発見したのである。腐っている様子はないし、舐めてみたら変質した匂いもしない。酸化しにくいのならまだ使えるだろう。ブームは再燃することも、ままある。

 とはいえ、最近、気に入っているのはオリーブオイルだろうか。イタリアへ行った影響が大きい。誕生日祝いに友人のダンフミ女史から上等なオリーブオイルをプレゼントされたからでもある。彼女のメッセージに、

「私はたっぷりのオリーブオイルで野菜を炒めたあと、鶏ガラのスープでコトコト煮る野菜スープを朝食の定番にしています。『黄金スープ』と呼ばれて血液をきれいにしてくれるそうです」とあった。

 朝からなんと丁寧な食事をしているのであろうか。よし、真似しよう! と思いながら、結局、朝はいつもバタバタしていて、まだ実践に至っていない。ダンフミのレシピがもう一つ記されていた。

カテゴリ: カルチャー
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
阿川佐和子(あがわさわこ) 1953年東京生まれ。報道番組のキャスターを務めた後に渡米。帰国後、エッセイスト、小説家として活躍。『ああ言えばこう食う』(集英社、檀ふみとの共著)で講談社エッセイ賞、『ウメ子』(小学館)で坪田譲治文学賞、『婚約のあとで』(新潮社)で島清恋愛文学賞を受賞。他に『うからはらから』、『レシピの役には立ちません』(ともに新潮社)、『正義のセ』(KADOKAWA)、『聞く力』(文藝春秋)など。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top