やっぱり残るは食欲
やっぱり残るは食欲

ひき肉・ザ・ワールド

執筆者:阿川佐和子 2025年10月9日
タグ: 日本
ひき肉料理にハズレなし(写真はイメージです)

 献立はまだ決まっていないけれど、スーパーに来てしまいました。売り場を巡りながら食料品を一つ一つ睨みつける。なにをつくろうかなあ。おぼろげな記憶力を駆使して冷蔵庫内の光景を再現し、なにがあったか、なかったかを頭の中で検索する。ニンニクはまだあった。生姜がそろそろ足りないか。みょうがとシソの葉は一応買っておきましょう。サラダ用のレタスは残っていたかしら。ピーマンはあるけれど、青菜を一つ買っておこうかな。チンゲン菜かほうれん草か、はたまた小松菜か。

 サイドメニュー用の野菜や薬味になるものは次々と籠に放り込むものの、さてメインをどうする?

 そんなとき、とりあえず買っておこうと思うのは、豚バラの薄切り肉や鶏もも肉と並んで、なんと言ってもひき肉である。

 鶏、牛、豚、合い挽き。どれもよし。ひき肉さえあれば、なんとかなる。おいしい晩ご飯ができる。ひき肉料理にハズレなし! 私は肉売り場から「牛豚合い挽き肉」のパックを一つ取り上げて、籠に入れる。

 ひき肉には、子供心をくすぐる力がある。かたい肉のかたまりはまだ食べられないけれど、ひき肉なら咀嚼しやすいし消化もいい。食事創成期以来の仲。いわば幼馴染みのようなものである。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
阿川佐和子(あがわさわこ) 1953年東京生まれ。報道番組のキャスターを務めた後に渡米。帰国後、エッセイスト、小説家として活躍。『ああ言えばこう食う』(集英社、檀ふみとの共著)で講談社エッセイ賞、『ウメ子』(小学館)で坪田譲治文学賞、『婚約のあとで』(新潮社)で島清恋愛文学賞を受賞。他に『うからはらから』、『レシピの役には立ちません』(ともに新潮社)、『正義のセ』(KADOKAWA)、『聞く力』(文藝春秋)など。
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