ウクライナ讃歌
ウクライナ讃歌 (24)

第5部 再起する日常(2)「日曜大工戦争」

執筆者:国末憲人 2026年2月10日
タグ: ウクライナ
エリア: ヨーロッパ
ロシア軍に包囲された北部チェルニヒウに食料を運び込んでいたのは、若者たちでつくるボランティア団体だった[ボランティア団体「善意の炎」が配布していた食料袋。3日分の食べ物が入っている=2022年4月、筆者撮影]
攻撃下のウクライナで、ボランティアは一種の社会インフラとして機能している。地雷除去や食料・医薬品の運搬など、市民レベルを超えた広がりを見せる様々なネットワークの活動は、最前線に取り残された人の脱出を助けるなど命が危険に晒されることも少なくない。ウクライナの人々は、なぜこれほど戦争に“参加”するのか。それは「侵略に対する抵抗」であると同時に、脆弱国家だったウクライナにおいて「戦争は軍に任せるには重要すぎる課題」なのかもしれない。仏社会学者アンナ・コリン=レベデフは「ウクライナ社会は、単に戦争によって変わっただけではない。戦争のために変わったのである」と指摘している。

 ロシアによる全面侵攻下で盛んになったボランティアは、市民のレベルにとどまらない。ウクライナ以外の国家や国外の企業と連携し、政治レベルでも活動を展開する場合もある。地雷除去活動に携わる「平和のためのグローバル同盟」(GAPD)は、その一例である。

地雷除去をコーディネート

 ウクライナでは、首都キーウ周辺や北部、東部、南部などロシア軍の侵攻をいったん受けた地域を中心に、地雷や不発弾が広範囲に残る。ウクライナ非常事態庁(SESU)などによると、汚染された面積は2025年3月時点でウクライナ本土の23%に及ぶ。2025年9月時点での地雷や不発弾による死者は354人、負傷者は932人に達する1。農業の再建や経済復興を進めるうえで、地雷や不発弾の除去はまず取り組まなければならない課題である。

 GAPDは、その作業を支援するボランティア団体である。

 地雷を巡っては、第1には、除去してもらいたい農家や自治体がある。第2に、その作業に必要な申請や手続きを担当する政府機関がある。第3に、地雷除去を支援しようとする国外のドナー団体がある。第4として、除去技術を持った企業やNGOがいる。これら4者の間を取り持ち、需要と供給を合致させ、その関係をコーディネートするのがGAPDの役割である。外国からの支援の可能性を把握するために、団体は外国著名人を加えた諮問委員会を設け、外国の団体とも連携する。一方でウクライナ政府にも働きかけるため、政界との強いパイプも維持している。

 そのほか、地雷の被害に遭った人への心理精神面でのサポートや、地雷除去作業員を養成する教育機関の整備にも携わる。

 この団体を設立し、会長職を担うのは、キーウで飲食店などを経営してきた実業家のマクシム・コフネンコ(53)である。全面侵攻を受けて弟が軍に志願し、配属されたのが地雷除去の部隊だったことからこの業界に関心を抱き、2023年に活動を始め、2025年にはNGO登録を済ませた。現在メンバーは約50人で、全員がボランティアである。

「地雷除去への農家の願いは切実ですが、彼らはそれをどこに訴えたらいいのか、どんな手続きが必要なのかはわからない。一方で、国外の財団などにとっては、地雷除去への支援が必要だとわかってはいるものの、具体的に誰がそれを求めているのか、情報がない。両方の要請を引き合わせ、結びつけるのが、私たちの仕事です。役所への必要な申請を支援するために財務管理の専門家も加わりました」

 マクシムが説明する。

 地雷除去は複雑な作業である。実際に作業を始める前に、機材をそろえ、作業員を集め、訓練を施し、現場の伐採や草刈りにも取り組まなければならない。1つの除去プロジェクトがあると、その予算の大半は事前の準備に費やされ、除去作業に割ける費用は2割に満たないという。

「だから、どこでいくら使われたのかを明らかにする透明性が欠かせません。すべてをオープンにして、途中でネコババなどされていないことを示さないと、ドナーは納得しないですからね」

 GAPD顧問で弁護士事務所を経営するロマン・ウィスツキー(49)が語る。

 作業に参加を希望するのは、圧倒的に女性が多い。夫を戦争で失った女性が「ウクライナの勝利に貢献したい」と志願するケースが少なくないという。マクシムは「きめ細かさが欠かせない作業ですから、女性向きといえるかもしれませんね」と話す。

 地雷除去は、ボランティアの取り組みとは別に、ウクライナ政府が進めるプロジェクトも並行している。「ただ、政府の仕事はのろすぎる。あのペースだと100年以上かかるよ」とロマンは不満である。マクシムによると「ゆっくり急ぐのが地雷除去のこつ」だそうである。

地雷除去に必要な資金の大半は事前の準備に費やされるという[地雷除去活動に携わる「平和のためのグローバル同盟」(GAPD)会長マクシム・コフネンコ(右)と顧問のロマン・ウィスツキー=筆者撮影]

 大きな課題の1つは、

カテゴリ: 軍事・防衛 社会
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執筆者プロフィール
国末憲人(くにすえのりと) 東京大学先端科学技術研究センター特任教授、本誌特別編集委員 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、朝日新聞ヨーロッパ総局長などを歴任した。2024年1月より現職。著書に『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』(岩波書店)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)、『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『イラク戦争の深淵』『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)など多数。
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