ウクライナ讃歌
ウクライナ讃歌 (23)

第5部 再起する日常(1) 復興ボランティア

執筆者:国末憲人 2026年2月8日
タグ: ウクライナ
エリア: ヨーロッパ
ボランティアには「金持ちも、貧乏人も、軍人も、歌手など芸能関係者もいます」とソロミヤは語った[ボランティア団体「キーウ蝙蝠」のヴァレンティン・マルキネ(右)とソロミヤ・コヴァチ=筆者撮影]
ある調査によれば、ウクライナには2022年2月24日のロシア軍による全面侵攻から6週間ほどの間に、約1700の人道支援団体が誕生した。その流れは定着し、現在も多くのボランティアたちが戦争被害者の支援や遺族のケア、壊れた家屋の修復などの現場を担っている。多数のボランティアが救援活動に携わるのは日本の被災地支援にも通じるが、取材を続けるうちに決定的な違いがあることにも気づくことになった。【現地レポート】

 共通の歴史を持たない分裂国家、オリガルヒやマフィアに支配される腐敗体質、経験と士気を欠く軍隊――。ウクライナに対しては、このような言葉が数多く投げかけられてきた。ロシア流の上から目線に基づく誇張が入り込んではいるものの、これらの批判はある意味でこの国の弱点を突いてもおり、ウクライナ人から同様の不満を聞くこともあった。

 そのような社会が、近年大きく変化しているという。ロシアの全面侵攻という未曾有の大難に巻き込まれ、国運を懸けた戦争に向かわざるを得なかったこの国で、何が起きているのか。日夜攻撃にさらされるウクライナを歩いた。

突然現れた若者たち

 キーウをはじめとするウクライナ主要都市へのロシア軍攻撃は、2024年春にいったん下火になったものの、2025年6月から急増した1。引き金となったのは恐らく、6月1日にウクライナ保安庁が実施した「蜘蛛の巣作戦」だっただろう。ロシアの奥深くに位置する複数の空軍基地をウクライナのドローンが攻撃し、ウクライナ側によると40機以上に被害を与えた出来事で、ロシア側の攻撃激化は、これに対する報復だった可能性がある。

 軍事施設よりむしろ、民間の住宅や学校、幼稚園、病院を主な標的として、数十から数百機レベルのドローンにミサイルを加えた攻撃が、連日のように続いた。その波は2026年に入っても途絶えていない。

 その最も激しいものの1つが、2025年6月17日未明にキーウ市内の住宅街を襲い、少なくとも28人の犠牲者と100人以上のけが人を出した攻撃である。7月末、その現場を訪れた。

 市内西部の幹線道路から少し入ると、ソ連時代のアパートが並ぶ。その一角で、横に長い9階建てコンクリート製の1棟が真ん中で2つに割れていた。当日の午前4時前、このアパートの中央の3、4階部分にミサイルが着弾し、上下の居室を巻き込んで崩れ落ちた。

 その地下には無届け営業のカジノが設けられていた。キーウは午前0時から5時まで外出禁止だが、この時はこっそり営業していたと見られる。崩れた瓦礫が撤去された後、探索犬が騒いだのでさらに地下を掘ったところ、カジノの客らと見られる遺体が数体見つかったという。

 出来事から1カ月あまり経って、瓦礫の多くは片付けられているが、現場の周りには焼け焦げた車が残り、衝撃がなお生々しい。周囲の窓の多くも割れ、応急措置として木質ボードや合板がはめ込まれている。

 
2025年6月17日未明にロシア軍の攻撃を受けて大破したキーウ市内のアパート[筆者撮影]

 ウクライナ国立工科大学の教員カテリーナ・ルゴウスカは、このアパートの最上階に住んでいた。同じ縦列の7階には両親も暮らす。当日は、攻撃の直前に警報が発令されたため、自宅アパートの真下にある地下シェルターに避難していた。自宅がある箇所は着弾地点から少し離れており、部屋の内部に大きな被害は生じなかったが、衝撃で窓ガラスが割れてしまった。

「住居が破壊されてしまえばキーウ市が仮に住む場所を提供してくれますが、私の場合アパート自体はそのまま残ったので、壊れたところを自分で直すしかありません。夏だったからまだましだったのですが、修理には時間も費用もかかります」

 しばらく待たなければ、と諦めていたカテリーナを驚かせたのは、翌朝だった。見知らぬ若者たちが5人ほど、木質ボードを携えてやってきた。てきぱきと15分ぐらいで作業を進め、居間と台所の壊れた窓にボードをはめ込んだ。光は入らないが、これで雨露はしのぐことができる。

「被害を受けて落ち込んでいた時だけに、若者たちの振る舞いには大いに励まされました。戦争だからこそ、人間の嫌な面が見えると同時に、人間の良い面にも気づかされました」

 彼女はこう振り返る。

 若者たちはどこから来たのだろうか。キーウ郊外で、彼らに会った。

カテゴリ: 社会 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
国末憲人(くにすえのりと) 東京大学先端科学技術研究センター特任教授、本誌特別編集委員 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、朝日新聞ヨーロッパ総局長などを歴任した。2024年1月より現職。著書に『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』(岩波書店)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)、『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『イラク戦争の深淵』『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)など多数。
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