戦争に「巻き込まれない」ための日本の措置を「相手」が理解するとは限らない[日米の共同訓練「アイアン・フィスト」が終了し、式典で握手する陸上自衛隊の梨木信吾陸将補と米海兵隊のフレドリック・フリデリクソン准将=3月12日、沖縄県うるま市](C)時事
反撃能力の保有や防衛予算増額など「防衛力の抜本的強化」を旗印に、2022年12月に「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」から成る新「安保3文書」が策定された(なお新安保3文書のポイントについては、策定直後に本誌に寄稿した小論『新安保3文書が示す「積極的平和主義」具体化へのキーポイント』にまとめている)。
今回の3文書で印象的なのは、「相手」の存在を強く意識した書きぶりとなっている点である。たとえば国家防衛戦略は、防衛力の抜本的強化の目的として、「我が国の意思と能力を相手にしっかりと認識させ、我が国を過小評価させず、相手方にその能力を過大評価させないことにより我が国への侵攻を抑止する」ことにあるとしているほか、相手方の意思や認識に働きかける重要性を再三強調している。安全保障政策が国家間の相互作用を前提とするものである以上、そのこと自体は特異ではない。
一方、戦後日本の安全保障政策は、このような「外的視点」、つまり敵対的な相手国や、あるいはそれのみならず同盟国から見るとどう映るのか、という見方以上に、あくまで日本側の都合にもとづく「内的視点」に影響されがちなきらいがある。
事態概念をめぐる「内的視点」
有事の場合、武力行使も含む自衛隊の行動は、当然ながら法律にもとづいてとられることになる。ただし日本がこれまで整備してきた同盟条約を含む安全保障体制では、有事をそれぞれの性格に沿っていくつもの「事態」として法的な概念化をおこない、それぞれの事態ごとに対応を細かく分ける、という方式をとっている。
具体的には、日本が直接外国の攻撃にさらされる「武力攻撃事態」以外に、「極東有事」(アメリカ軍による日本の基地の使用)、「重要影響事態」(自衛隊によるアメリカ軍などへの後方支援)、「存立危機事態」(集団的自衛権の限定的行使)などがある(これ以外にも、「国際平和共同対処事態」がある)。
そして各種事態への対応は、主に二つの要因によってかたちづくられているといえる。第一に、「一国平和主義」である。一国平和主義とは、日本と日本以外のあいだで線引きができる、との前提に立ち、日本の責任と関与は前者のみに限定すべきだ、とする戦後日本独特の安全保障観である。「日本が戦争に巻き込まれなければそれでいい」とする考え、と言い換えることができよう。
第二に、「必要最小限論」、すなわち日本は憲法第9条の下でも「自衛のための必要最小限の実力」であれば保持できる、とする憲法解釈だ。逆に言えば、自衛のための実力は保持できるとしても、必ずどこかで「ここより内側が必要最小限」という「一線」を引かなければならないということである。典型的なのは、個別的自衛権と集団的自衛権のちがいを「必要最小限」という概念とひもづけ、後者を違憲とする解釈である。
一国平和主義も必要最小限論も、ある意味で内的視点に立った考え方だ。そこで、日本による極東有事、重要影響事態、存立危機事態への対応、さらには事態の推移に応じた対応の変更について、以下では外的視点を交えつつ考えてみよう。
極東有事と事前協議
日米安全保障条約第6条は、アメリカ軍が日本の基地を、日本防衛だけでなく、「極東における国際の平和及び安全の維持に寄与」するために使用することを認めている。これが「極東条項」といわれるものである。ここで言う極東とは、……

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