自衛隊最高幹部が語るウクライナ戦争(第3部)――核戦略と台湾有事への影響

ハルキウ近郊で米国製の対戦車ミサイル「ジャベリン」を構えるウクライナ兵 ©AFP=時事
国民の8割が「核について議論すべき」
岩田清文(元陸上幕僚長):ここまでウクライナ戦争の教訓について色々と議論してきましたが、これらの教訓は日本に対して、具体的にどのような影響を及ぼすのでしょうか。最初に、世界的な核戦略にどういう影響があったかということについて、尾上さんからお願いします。
尾上定正(元航空自衛隊補給本部長):はい。今回、核兵器は「使われる可能性のある兵器」だという認識が、国際的に広まってしまいました。冷戦時代はMAD(相互確証破壊)という概念があり、戦略核兵器をお互いに撃ち合ってしまったら生き残る国はないということで、核は使えない兵器だと言われていた。核は持っていることで抑止が効くという前提で、核抑止理論が構築され、核軍縮や核の軍備管理が行われてきたわけです。ところが今回、プーチンのいうエスカレーション抑止(escalate to de-escalate)戦略、つまり「通常戦をエスカレーションさせないために核兵器を使う」という脅しによって、通常戦を支配しようという戦略ですが、これが機能してしまっている。この有効性を知った中国は今後、当然それを使ってくるだろうと考えざるを得ない。

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