ジョー・バイデン大統領は5月25日、米軍制服組トップの統合参謀本部議長マーク・ミリー陸軍大将の後任に、空軍参謀長チャールズ・Q・ブラウン大将(CQの愛称)を正式指名した。議会上院の承認を得て本年10月までには就任する予定だ。黒人が統参議長に就任するのは、湾岸戦争で名を馳せたコリン・パウエル陸軍大将以来の二人目となり、ロイド・オースティン国防長官(元陸軍大将)との黒人ツートップは米国史上初となる。
二期目の大統領選に立候補したバイデン大統領にとって極めて重要な人事であるだけでなく、ロシアのウクライナ侵攻と中国の軍事拡大という厳しい情勢を踏まえれば、日本を含む世界にとっても大きな意味を持つ。統参議長は米国大統領の国防政策・戦略を軍事面から補佐するとともに、世界に展開する米軍の態勢や将来の戦力構築のあり方を主導する責務を有するからである。
同時に、今秋までに行われるブラウン大将の上院指名公聴会は、二極対立が激しい米国の内政と政軍関係を展望する重要な機会となる。
黒人として初の空軍トップに
CQブラウン大将は1962年、軍人一家の長男として生まれ、1984年、ROTC(予備役将校訓練課程)優秀修了生としてテキサス工科大学を卒業、米空軍に入隊。F-16パイロットとして、韓国群山基地で“ウルフパック”と呼ばれる精鋭ぞろいの第8戦闘航空団の司令を始め、イタリア、ドイツ等で指揮官職を歴任、2018年7月に太平洋空軍司令官に指名された。
同ポストはインド太平洋地域における米空軍の全ての主要作戦を指揮監督する要職であり、筆者も日米エア・フォース友好協会訪問団の一員として2018年9月、就任間もないCQとハワイで意見交換した。我々の当時の最大の関心は中国の軍事拡大であり、CQと彼のスタッフや政策顧問と西太平洋の軍事バランスや中国の接近阻止・領域拒否(A2AD)戦略について議論したことを記憶する。
欧州や中央軍での勤務を通じ世界的視野を広げるとともに、太平洋空軍司令官としての2年間の勤務によって、ブラウン大将が地域の安全保障・軍事情勢や中国人民解放軍(PLA)の実情に習熟したことは間違いない。
2020年8月、黒人として初めて4軍種の長(空軍参謀総長)に就任したブラウン大将は、就任と同時に米空軍に対し“ACOL (Accelerate Change or Lose)”(変化を加速せよ、さもなければ負ける)と号令した 。当時のトランプ政権は、2018年1月に国家防衛戦略を発表し、中国とロシアをアメリカが最優先で対応すべき戦略的競争相手と明言していた。特に中国に関しては、それまでの関与政策の失敗を認め、軍事・経済・技術等のあらゆる分野において優位を競う戦略に転換、米空軍にとっても、AIやドローン等の革新的な技術を実装化し、急速に能力を強化する中国のエアパワー(海軍の航空戦力を含む)に対抗することが最優先の課題であった。
中国のA2AD戦略に対抗すべく変革を主導
当時の米空軍は、冷戦終結直後に起きた湾岸戦争(1991年)で完璧な勝利を収めたものの、9.11同時多発テロ(2001年)を契機にアメリカの軍事戦略がイスラム過激主義等のテロ組織を脅威対象とするCOIN(Counter Insurgency)に変化して以来、対等の相手(Peer Competitor)との本格的な航空作戦への備えは、予算の制約もあって置き去りにされていた。太平洋空軍司令官として実感した中国の軍事的圧力が、CQに“ACOL”を叫ばせたのだろう。
ブラウン大将の主張するACOLとは何か。
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