停戦に向けた駆け引きの裏で追い詰められるウクライナ

ロシア・ウクライナ戦争開始から3年が経過した。いまだ戦争の終結が見いだせない中、ドナルド・トランプ米大統領就任から約1カ月で、停戦に向けた交渉が大きく動きだした。FOXニュース(2月19日)によれば、トランプ政権は「3段階」計画により、停戦交渉を進めようとしている。まず4月20日に停戦宣言をし、戦闘を止める。第2段階として、ウラジーミル・プーチン・ロシア大統領の希望どおりにウクライナに大統領選挙を実施させる。最後に時期は不明だが、和平協定を結ばせるというものだ。
これまで、停戦の実現には長い日数を要すると見られていたが、この3段階計画が事実とすれば、いったんは戦闘が収まる可能性はある。ただし、その後の和平協定に向け、ウクライナ、ロシア両国が合意に至るには課題が残ったままだ。
例えばその一つは停戦ラインである。現状の戦闘が行われている前線とするのか、あるいはロシアが望む東部・南部4州の州境まで西に押し出すのかが争点となる。もう一つはウクライナがこだわる戦後の安全保障の保証をどう担保するかが、将来にわたりロシアの再侵攻を抑止するためには極めて重要である。英仏軍等のウクライナ駐留に頼るのか、あるいはロシアが将来再び侵攻した際に自動的にウクライナを北大西洋条約機構(NATO)に加盟させることによりロシアを抑止するのかが争点となるだろう。さらに、ロシアの要求どおりヴォロディミル・ゼレンスキー氏が大統領選挙の実施を了承するのかなども課題として挙げられる。
ロシアが“併合”した土地の3割をウクライナが保持
プーチン氏は、昨年6月14日、停戦の条件として、二つを挙げている。その一つが、東部・南部4州全ての土地をロシアに譲れというものだ。この背景には、ロシアのウクライナ侵攻約7カ月後の2022年9月30日、ロシアによるウクライナ東部・南部4州(ドネツク州、ルハンシク州、ザポリージャ州、ヘルソン州)の併合宣言がある。この宣言はロシア連邦議会によって承認され、プーチン氏は翌10月5日、これら4州をロシア連邦に編入するための条約の批准法案と国内法改正案に署名し、ロシア連邦としての法的手続きを完了している。これら4州を実態として占領しなければ、国内的には説明がつかない。しかし、4州の土地の約3割は、数万人のウクライナ兵士の命と引き換えに、今もなおウクライナ軍が死守している。加えて、この地域には、いまだに多くのウクライナ国民も居住している。ウクライナとして、ロシアの条件をのむわけにはいかないだろう。
両国共に譲れない中、トランプ氏は、その他の争点との駆け引きにより決着させようとするだろう。先月のトランプ・マクロン大統領会談後、トランプ氏は今後数週間以内に戦闘が停止される可能性について言及している(BBC 2月24日)。その数週間後が、冒頭述べた4月20日なのか、いつになるのかは不明であるが、それまでの間、政治的な交渉が少しでも有利になるように、戦場では戦闘が繰り広げられるだろう。その焦点となる戦場は、東部ドネツク州とロシア西部クルスク州である。
膠着状態の東部ポクロフスク
ポクロフスクはドネツク州の北西部に位置し、複数の鉄道線が交わる重要な輸送拠点である。この小都市が陥落した場合、ロシア軍のドネツク州全域占領への大きな足掛かりになるだけではなく、西方へ20km程度しか離れていないドニプロペトロウシク州への進軍も可能となる。ロシア軍は、この地に対し昨年から半年以上にわたり攻撃を加えているが難攻不落と化している。これは、10倍の戦力を持つロシア軍の人海突撃戦術に対し、ウクライナ軍の長期間にわたる陣地構築等の防御準備や、電子戦によるロシア軍のドローンの飛行妨害、並びに効果的な砲爆撃等の戦法が功を奏していると言えよう。英国国際戦略研究所(IISS)/米戦争研究所(ISW 2月13日)によれば、ウクライナ軍のドローン攻撃の効果が要因とみられるロシア軍の装甲車及び砲弾数の減少がドネツク州等で確認されている。
この状態を打開するため、ロシア軍司令部は、南部軍管区から7000~8000名からなる2個の師団をそれぞれポクロフスク地域、及びその約50キロ東のトレツク地域に増援したとされている(ISW 2月16日)。ポクロフスクの攻防は、一日に1000名以上のロシア軍戦死者を出しながらも、膠着状態のまま、今後も戦闘が継続するものと見積もられる。
クルスク州は「数カ月以内にロシアが奪還」との予測
一方クルスク州の戦闘では、昨年8月上旬の侵攻当初、ウクライナ軍は東京23区の2倍強の土地を占領したが、その後北朝鮮軍の約1万2000名を含む約7万8000名のロシア軍が反撃に転じ、現状は800平方キロ以上の領土(ウクライナが制圧した地域全体の約64%)を奪還したとされている(ロイター 2月20日)。

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