クルスク州に北朝鮮軍が集中投入、狙いは“トランプ停戦”までのクルスク奪還?
1万人を超える北朝鮮軍のロシアへの派兵は、この戦争の地域的なエスカレーションを示すものであり、その影響が朝鮮半島及び北東アジアにまで拡大する危険性を孕んでいる。北朝鮮は、これまでに800万発を超えるとされる砲弾やミサイルなど、兵器による支援でロシアを助けてきたが、兵士を送りこむ見返りとして、ロシアからの人工衛星やミサイルなどの高度な技術支援の獲得及びドローン運用など現代的な戦闘技術の習得が期待できる。
一方ロシアの現状は、毎日1000人以上の兵士を損耗する攻撃を加えても思うように戦況が進展せず、ウクライナ軍に占領されたロシア西部クルスク州の自国領土も、ウラジーミル・プーチン大統領が指示した10月1日までに奪回できていない。ロシアとしても、これまで格下扱いをしてきた北朝鮮の人的戦力に頼るしかないのが実情であろう。双方の思惑が一致するこの派兵は、6月に締結されたロシアと北朝鮮の「包括的戦略的パートナーシップ条約」の絆を実質的に深めることとなり、今後両国の連携が地域的にも、軍事協力の内容的にも拡大していくことが懸念される。
北朝鮮兵とともに大規模攻勢が展開中?
ウクライナや米国、韓国の情報機関等の報道から、北朝鮮軍の派兵の規模や行動が明らかになってきた。
韓国の聯合ニュースは10月18日、韓国国家情報院が尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領との非公開の緊急安全保障会議の後、北朝鮮が合計1万2000人からなる4個旅団をロシアに派遣することを決定したと明らかにした、と報道した。次いで10月31日、ロイド・オースティン米国防長官は、8000人の北朝鮮兵士がクルスク州でより大きなロシア軍グループの一部として活動していると述べた。11月5日には、ウクライナのリュステム・ウメロフ国防相が、韓国公共放送KBSとのインタビューで、「現在まで把握された北朝鮮軍の兵力は約1万2000人。今後クルスク地域など約1500キロメートルに達する戦線に約3000人ずつ5個の部隊として最大1万5000人が投入されるだろう」と述べている。
その後の11月12日、米戦争研究所(ISW)は、「ウクライナ当局者と西側メディアは最近、ロシアが2025年1月下旬までにウクライナ軍をロシア領から追い出す作戦に備えて、約8000〜1万人の北朝鮮軍を含む約5万人の要員をクルスク州に集中させたと報じた」と報告している。この報告が事実であれば、来年1月20日のドナルド・トランプ米大統領就任までにクルスク州からウクライナ軍を撃退することにより、その後の停戦交渉を有利に進めようとのロシアの意図が見えてくる。実際にウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領が11月11日、同国軍がクルスク州でおよそ5万人の敵と交戦中だと明らかにしたことから、ロシア軍が北朝鮮兵とともに大規模な攻勢に出た可能性がある。
これらの報道から、既に派兵された約1万2000名の北朝鮮軍のうち3個旅団、約9000名(1個旅団=約3000名)がクルスク州に集中投入されたと推定される。中曽根平和研究所の大澤淳主任研究員によれば、ウクライナ国土防衛隊のドローン攻撃部隊の戦果報告がTelegram(11月9日)に上げられており、そこには、ドネツク戦線でドローン攻撃を受けた北朝鮮軍兵士の映像が掲載されている。この映像が事実であれば、北朝鮮軍の残る1個旅団は東部ドネツク戦線に投入されたと見ていいだろう。そしてウメロフ国防相が語った最大1万5000人という数字が正しいとすれば、今後、さらに1個旅団がいずれかの戦線に増強される可能性がある。
派兵されたのは通称「暴風軍団」の一部
地上軍を送り込むことと武器供与とでは、軍事協力の性質が大きく変わる。
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