[随時更新]戦略視点で捉えるウクライナ最新戦況マップ
[随時更新]戦略視点で捉えるウクライナ最新戦況マップ (7)

2025年、ロシア・ウクライナ戦争の停戦をめぐる注目点 その2:各国の思惑と和平の有効性

執筆者:岩田清文 2025年1月9日
エリア: ヨーロッパ
トランプ次期大統領(右)の停戦案を、プーチン大統領(左)が受け入れるかは不透明だ(C)AFP=時事
ロシア・ウクライナ双方の停戦条件に関する隔たりは大きい。トランプ側近らが示唆する条件(戦線の凍結と、ウクライナのNATO加盟プロセスの中断)での停戦をウクライナに強いたとしても、安全の保障がなければ再侵攻の恐れは残る。米国が関与を弱める場合、欧州諸国の軍隊がウクライナに駐留する案もあるが、優位な立場にあるロシアがそれを認めるかは不透明だ。

トランプ政権チームの停戦構想

 ドナルド・トランプ氏は、大統領選挙勝利への自信を持っていたのか、4年前と違い、選挙戦以前から政権移行チームを発足させ、様々な移行準備を整えてきている。その一つが、ロシア・ウクライナ戦争停戦に向けた検討である。チームが考えているとされる和平交渉案は、「およそ1280キロメートルにわたり非武装地帯を設ける戦闘凍結案」であり、その条件は3つ。①ロシア軍に占領されたおよそ20%のウクライナ領土の現状固定化、②ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟に向けたプロセスを少なくとも20年間中断、③米国は引き続きウクライナに武器を供給、というものである(WSJ 2024.11.7)1

 この交渉案を提言しているのは政権移行チーム関係者3名のようだ。トランプ氏がウクライナ・ロシア担当特使に任命した元陸軍中将のキース・ケロッグ氏、及びJ・D・バンス次期副大統領、そして駐ドイツ大使を務めたリチャード・グレネル元国家情報長官代行である。ケロッグ氏は昨年6月、「戦線を現状のまま凍結し、ウクライナとロシアに交渉のテーブルについてもらう」と述べている(ロイター 2024.6.25)2。また、上院議員時代にウクライナ支援に反対していたバンス氏が昨年9月に策定した案では、ウクライナのNATO加盟を否定している。バンス氏は米ポッドキャスト司会者に対し、交渉案には、既存の前線に非武装地帯を設け、「厳重に要塞化」してロシアのさらなる侵攻を防ぐことが含まれる可能性が高いと語っている。さらに、グレネル氏は7月のブルームバーグとの円卓会議で、ウクライナ東部に「自治区」(詳細は不明)を設置することを提唱している。また、次期政権の大統領副補佐官兼対テロ対策上級部長に就任する予定のセバスチャン・ゴルカ氏は6月、英ラジオのインタビューで、トランプ氏が、ウラジーミル・プーチン大統領が和平協議への参加を拒めばウクライナに前例のない規模の兵器を供与すると脅して、交渉のテーブルに着かせると述べていた、と語っている(ロイター 2024.12.4)3

 彼らの提案は、停戦後における領土の安全保障の在り方、及び米国のウクライナ支援の度合いにおいて幅があるものの、戦闘が行われている現状の戦線を固定化するということ、及びウクライナのNATO加盟プロセスを中断することは共通しているようだ。問題は、この交渉案をヴォロディミル・ゼレンスキー大統領が受け入れるかどうかである。

ゼレンスキー大統領の本音――戦線の凍結はやむなしか

 ゼレンスキー氏は昨年12月9日、「ウクライナは誰よりもこの戦争を終わらせたい。外交的解決が多くの命を救うことは間違いなく、われわれはそれを求めている」と外交的解決を主張している。さらに、NATO加盟実現までの間は、外国部隊の展開を受け入れ、ロシアの再侵攻を抑止する考えにも言及している。背景には、この前々日の7日、ゼレンスキー氏がパリにおいて、トランプ氏、フランスのエマニュエル・マクロン大統領との三者会談に臨んでおり、戦線の「凍結」についても議論したことがある。翌8日には、トランプ氏が改めて即時停戦と交渉を呼びかけた。

 ゼレンスキー氏は2年以上にわたり、「停戦には全領土からのロシア軍の撤退が必要だ」と繰り返してきたが、先に述べた通りの兵員不足に加え、西側諸国からの武器支援が思うように得られないことから、武力による領土奪還は難しいと判断したようだ。昨年11月29日の英メディアのインタビューにおいて、「戦争の熱い段階を止めたいのであれば、われわれが支配するウクライナの領土をNATOの傘の下に置くべきだ。われわれはそれを速やかに行う必要がある。その後、外交手段によって領土の他の部分を取り戻すことが可能だ」4と述べている。従って、現状の戦線において当面、領土が固定化される米国の提案は、やむを得ないとして受け入れるであろう。

 問題は、停戦後のNATOの支援である。

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
岩田清文(いわたきよふみ) 元陸上幕僚長。1957年、徳島県生まれ。79年、陸上自衛隊に入隊(防大23期)。第7師団長、統合幕僚副長、北部方面総監などを経て、2013年、第34代陸上幕僚長に就任。16年に退官。著書に『中国、日本侵攻のリアル』( 飛鳥新社)、『自衛隊最高幹部が語る令和の国防』 (新潮新書)、『自衛隊最高幹部が語る台湾有事』(新潮新書)、『中国を封じ込めよ!』(飛鳥新社)、『君たち、中国に勝てるのか 自衛隊最高幹部が語る日米同盟VS.中国』(産経セレクト)、『国防の禁句 防衛「チーム安倍」が封印を解く』(産経セレクト)、『台湾有事のリアル 問われる日本の覚悟』(明成社)。
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