1月22日、「平和評議会(Board of Peace)」の設立署名式典が開かれた。スイス・ダボスにおける世界経済フォーラム年次総会にあわせて、参加国の首脳が集まった機会をとらえて行われたものだ。この「平和評議会」の構想は、当初から怪しいものだったが、実際に明らかになってきた内容からは、さらに謎めいた様子がうかがえる。日本はこの「平和評議会」から距離をとっているが、これはやむを得ないと言える。
一応の停戦合意の成立で、ガザ情勢は、最悪の時期は脱している。しかしイスラエルの軍事行動が完全に停止しているわけではない。イランをはじめとして、レバノン、シリア、イエメンなどの中東の至る所で、イスラエルとアメリカが軍事攻撃を仕掛けた後、最悪の軍事衝突の峠を越えたように見えるが、流動的で不穏な情勢は続いている。
日本としては、アメリカとの同盟関係は重要である。また、中東和平に向けた貢献ができるのであれば、もちろんそれに越したことはない。だが平和評議会を中心にした中東和平の行方は、相当に不安定なものだと言わざるを得ない。国連機関が駆逐されてしまうことに、日本として利益があるわけではない。不用意に責任を負う関与をすることはできない、という判断は、妥当だろう。
アメリカからの防衛費増額の圧力にさらされて、イスラエルとの兵器購入等を通じた軍事関係が広がる傾向も見えないわけではない。巷では一連の軍事行動を通じてイスラエルの中東における一強体制が固まってきた、という見方もあるようだ。そうした見解は、軍事分野での日本とイスラエルの関係強化の傾向が見られる背景要因として働いているかもしれない。だが中東情勢の先行きは、それほど単純なものには見えない。精緻な情勢分析を怠らず、慎重に立ち位置を見定めていく必要がある。
法的権限なしで設立された“謎の機関”
昨年9月、ガザ危機の停戦合意を目指すドナルド・トランプ米大統領の「20項目」和平案の中で、「平和評議会」の構想が披露された。パレスチナ人からなる「技術者委員会」の上位に置かれる機関だ。混迷を深めるガザ情勢に一定の安定をもたらすためには、何からの中立性を持つ国際的関与があることは、望ましい。わかりやすい形としては国連の主導的な役割が期待されるところだった。しかし、イスラエルの国連軽視が甚だしく、現実には国連主導の和平プロセスの開始はほぼ不可能だった。そこでイスラエルに影響力を行使できるアメリカが主導する形での停戦合意も、次善の策として、受け入れられることになった。それが「20項目」和平案だったと言ってよい。
停戦合意が昨年10月に成立したことを受けて、国連安全保障理事会は、決議2803を採択し、「20項目」案にもとづくガザ和平プロセスを承認した。当初は、中国とロシアの消極的な態度を乗り越えられるかが焦点だったが、イスラム圏諸国を含む非常任理事国が、ガザ停戦を歓迎して「20項目」案を受け入れる立場であったため、中国とロシアも拒否権を使う反対まではせず、棄権した。
これによって「平和評議会」の設立にも、安全保障理事会レベルでの認知が与えられたことになった。ただし、同決議は、国連憲章7章の強制措置にもとづくようなものではないため、「平和評議会」に、何らかの明示的な法的権限を付与されたとまでは言えない。内容が曖昧模糊としているため、今後の「平和評議会」の活動に安全保障理事会レベルの権威が付与され続けるわけでもない。
「20項目」案の段階から、「平和評議会」は、非常に怪しいものであった。
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