危機時の資産運用のトリセツ――「トランプショック」とどう付き合えばよいか

タイミングを計ればハマる「投資失敗の沼」
2025年に入り1月こそ株価上昇でスタートしたものの、2月から米トランプ政権の追加関税が発動されると株価は下落に転じた。そして4月前半には相互関税発表や、対中国追加関税と中国の報復関税のラリーで株価は大きく下落した。
関税問題に終わりは見えていないが、このトランプショックで投資家がまず懸念していることは、インフレと景気後退だろう。
関税引き上げによって輸入業者の仕入れコストが上昇し、それが価格に転嫁されていくと最終的に消費者が支払う価格が上昇する。インフレの長期化が予想されるとFRB(米連邦準備制度理事会)は簡単には政策金利を下げられず、インフレの継続が予想されると消費者のマインドも下がりやすい。
図1はミシガン大学が発表している消費者信頼感指数だ。ミシガン大学のサーベイ・リサーチ・センターによる調査結果が毎月発表され、アメリカの一般消費者の経済に対する信頼度や将来への期待感を反映している。FRBも政策判断の参考にする重要指標だ。2025年5月の発表では消費者マインドは大きく下がり、1年後のインフレ期待は6.6%へ急上昇している。このインフレ期待の数値は1981年以来の高水準だ。景気悪化と物価上昇という最悪の組み合わせが懸念されている。
このようなニュースを目にすると「投資は一旦止めて、この問題が落ち着いてから再開しよう」と考える人が多いのではないだろうか。しかし、相場を予想することは困難で、売買のタイミングを計りだすと「投資失敗の沼」にはまっていく。
個人投資家にとってコアとなる資産の運用は、やったりやらなかったりするのではなく、ずっと継続することが重要だと私は常々話している。ずっと続けていると必ず〇〇ショックや▲▲危機に遭遇する。それでも続けるには投資家が「資産運用との付き合い方」を知っている必要がある。
そこで「危機時の資産運用のトリセツ」だ。
危機は姿カタチを変えながら何度もやってくる
なぜ株価は暴落するのだろうか。それはその時の状況を投資家が「前例のない危機的な状態」と感じるからだ。何か問題が発生しても、過去に対処した事態と同じようだと感じれば、前例から対処法がわかるので危機とは認識しないだろう。だから株価も暴落しない。
しかし、例えば2020年のコロナショックは状況が違った。映画のようなことが現実になり、目に見えないウイルスとの戦いを私たちはいきなり余儀なくされた。世界の終わりを感じた人もいただろう。投資家は「今までとは違うぞ、危ないぞ」と緊張し、株価暴落につながった。
2008年のリーマンショックもそうだ。リーマン・ブラザーズが破綻し株価が暴落した時、「今回は違う」「100年に1度の危機だ」と多くの投資家が叫んだ。どちらの危機もとんでもない状況だったが、各国政府、中央銀行、民間企業、みんなが対策を講じ痛手を負いながらも乗り越えてきた。
重要なのは、危機は姿カタチを変えながら「何度もやってくる」と知ることだ。コロナ、リーマンの前には、ITバブル崩壊(2000年)、アジア通貨危機(1997年)、ブラックマンデー(1987年)、オイルショック(1973年)という危機があった。こうした「危ないぞ」のたびに資産を売却していたら、運用で成功することはない。現在のトランプショックも「また現れた危機」だと考えることが重要だ。
投資家のマインドを一歩引いて客観的に眺めてみる
とはいえ、株価が暴落する時はやはり気になるのが人情だろう。狼狽売りすることのないように、株式市場が危機時にどのような動きをするのか、株価の下落から回復にはどのくらいの期間を要するのかを、知っておくことが安心につながる。また、投資家のマインドを一歩引いて客観的に把握することも大事だ。
「下落期間は最大2年」とイメージしておく

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