トランプ大統領の発言とアクション(12月4日~12月11日):同志国との「AIブロック」を本格起動、規制一元化には「リベラルと一部MAGA」の反発も
「ジェネシス・ミッション」はAI国家戦略の「脳」
「人工知能(AI)によって世界の先頭に立つべく、あらゆる手段を講じる」――ドナルド・トランプ大統領は7月23日、こう明言した。その言葉どおり、トランプ政権はAIを国家戦略の中核に据え、連邦政府主導の体制を段階的かつ体系的に構築してきた。1月23日の「AI分野での米国の主導的地位を阻む障壁の排除」と題した大統領令を皮切りに、各種の施策は段階的に積み上げられてきた【チャート1】。
7月23日、①イノベーションの加速、②AIインフラの構築、③国際的なAI外交・安全保障を主導すること――の3本柱で構成された「AI行動計画」が公表された。同日には、行政AIの政治的バイアス排除(いわゆる「Woke AI」禁止)の大統領令、データセンター建設推進の大統領令も署名された。さらに、米国製AIモデルや半導体、クラウド基盤の輸出を促す大統領令も発令され、米国を中核とした「AIブロック」の形成を目指す姿勢を鮮明にした。これは、米国製のチップやクラウドに依存したAIインフラ、英語圏・同盟国向けに最適化された基盤モデル、米国主導のセキュリティ基準をセットで拡大することで、中国・ロシアの“対抗ブロック”構築を牽制する狙いがある。
こうした経緯を経て、トランプ氏は11月24日に「ジェネシス・ミッション」立ち上げの大統領令に署名した。連邦政府が保有する膨大な科学データを、エネルギー省(DOE)のスーパーコンピュータ群とAI基盤モデルに接続し、AIエージェントを用いて科学研究を加速する「AI版マンハッタン計画」とも呼ばれる。
戦略国際問題研究所(CSIS)は、これを「AIを梃子に米国科学を再活性化させる大胆な賭け」と評価し、エネルギー、半導体、量子、核融合といった戦略分野での競争力回復を狙う取り組みと分析した。背景には、①中国との技術競争の激化、②米国の研究生産性の停滞――という2つの戦略的課題があり、トランプ政権はAIを活用し「10年以内に科学的生産性を倍増させる」という野心的な目標を掲げる。
一方で、ミッションの中核となる「アメリカ科学安全保障プラットフォーム(ASSP)」の構築には、人材不足、データガバナンスと統合の困難、資金を含む資源制約、そして連邦政府機関・大学・国立研究所・民間企業の間での協調の難しさなど、課題も多い。英ネイチャー誌も、連邦科学データの統合とAIモデル開発が基礎科学から応用技術まで広範な波及効果を持つと評価しつつ、データガバナンスや軍民両用技術の管理が大きな障壁になると指摘している。
「脳」を支える人材・インフラも強化
議会も連携し、AI戦略を支える基盤として連邦政府内の人材・インフラ強化を進めている。
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