クラスの4人に1人が家庭では外国語を話す――「就学前の共通語習得」を促進するドイツの学校事情

執筆者:駒林歩美 2025年12月4日
エリア: ヨーロッパ
2022年の国際学習到達度調査(PISA)で、ドイツの15歳の子どもたちの読解力や数学力、科学力が過去最低を記録した[多言語主義と多様性に焦点を当てた「全国朗読の日」のイベントで小学生に読み聞かせをするトールステン・フライ連邦首相府長官(左端)=2025年11月21日、ドイツ・ベルリン](C)EPA=時事
外国にルーツを持ち、共通語を十分に習得しないまま学校に通う子どもが増えると、全体の教育水準が下がる可能性がある。移民の統合を重視するドイツでは、就学前のドイツ語教育を充実させ、そうした子どもたちの親に対する教育も重視する。同時に、子どもがアイデンティティ形成のため自分のルーツのある言語を学ぶことや、学校での差別やいじめを防ぐための人権教育を推奨している。

 ドイツは外国からの働き手なしに経済を回すのが難しくなっており、近年ではEU(欧州連合)諸国だけでなく、中東やウクライナからそれぞれ100万人以上の難民を受け入れ、移民は増えつづけている。

 ドイツ連邦統計局によると、ドイツ国籍を持たない在住者は、2023年末時点で全体の15.2 %に及ぶ。ドイツ国籍を持つ移民1世・2世を含めると、移民的背景のある人は全体の約30%になる。その割合は低年齢になるほど高くなり、2024年のマイクロセンサス(小規模国勢調査)によると一般及び職業学校に通う児童・生徒では42.2%にもなった。都市部ではさらに高く、たとえば首都ベルリンでは55%の児童やティーンネイジャーが移民的背景を持ち、特に移民が多いノイケルン地区では70%以上にもなるという。
ドイツの子どもは、6歳から18歳くらいまで学校に通うことが義務となっており、親は子どもを学校に通わせる責任がある。滞在許可申請中でも3カ月以上滞在する場合は学校に通う必要があり、2024年時点で全国の子どもの25%、移民的背景のある子どもの70%が家庭でドイツ語以外の言語を話している。

 ドイツが移民を受け入れ始めた1950年代当初、移民の統合政策はほとんどなく、1980年代くらいから、ドイツ社会と交わることのない、移民だけのコミュニティの存在が目立つようになった。しかし、そのような並行社会の人が定職につけなかったり、学業をうまく修められなかったりする割合が高く、社会不安の原因にもなりかねないため、統合政策はその後、積極化した。ドイツ語を母語としない子どもへの支援がなされてきたが、ドイツにやってくる子どもたちが過去に例のないレベルで急増したため、課題も増えている。

15歳の学力が過去最低に

 学校の授業はドイツ語で展開されるため、ドイツ語の習熟が不十分な児童・生徒は授業についていくのが難しくなる。一般的に、子どもは大人よりもずっと早く言語を習得できるが、日常会話ができるからといって、その言語で複雑な思考をできるとは限らず、学習に必要なレベルはより高い。そのため、ドイツ語力が不十分な子どもは成績も低迷しがちで、そういう子が多ければクラス全体のレベルも下げざるを得ず、他の子どもたちの学力低下にも繋がる。

カテゴリ: 社会
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
駒林歩美(こまばやしあゆみ) ドイツ在住のフリーランスライター。東京大学卒業後、コンサルティング会社、東南アジアでの勤務を経てヨーロッパに移住後、フリーランスに。講談社『クーリエ・ジャポン』などのメディアで、欧州事情やドイツ社会について伝える。オランダ・エラスムス大学経営学修士、英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン 教育大学院 教育学修士。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top