日本の国会では1990年代から2010年代にかけて外国人への地方参政権付与が議論されたが、いまだ実現の兆しはない。一方、自治体によっては外国人住民が増えたことで、その意見を施策に反映させるための協議機関を設置しているところもある。たとえば、神奈川県川崎市には「外国人市民代表者会議」を設置する条例があり、市政に対して様々な提言をしている。
外国人の意見の政治への反映について統一的な政策はなく、地域によって差が大きいのが現状だ。日本に永住する在日コリアンなどへの地方選挙権付与に関する議論は昔からあるが、外国人労働者や定住する移民の増加が見込まれる中、今後再び議論が求められるかもしれない。
外国人参政権をめぐる現状
オランダやスカンジナビア諸国では1980年代に、地方自治体レベルでの選挙権が外国人にも与えられるようになった。現在、世界で約50カ国が、少なくとも一部地域で、生活に直結する地方レベルの選挙権参政権を外国人に与えている。永住権を持つ住民に付与を限定する国もあれば、より緩やかな条件でも付与する国もある。
ドイツでも定住外国人が増え始めた1970年代頃から、外国人参政権に関する議論が始まったが、今もEU(欧州連合)以外の国の出身者には原則として選挙権がない。1980年代後半には北部の州を中心に外国人住民にも市町村レベルの選挙権が与えられたのだが、1990年に連邦憲法裁判所が、ドイツ基本法の枠組で選挙権を持てるのは「ドイツ国民」だけであると判断したため、撤廃されたという経緯がある。EU法に従って1992年からEU市民には地方参政権が与えられたものの、EU圏外からの外国人にも選挙権を与える基本法改正は保守派の反対を受けて実現していない。
一方、ドイツに帰化した場合は一定年齢に達すれば参政権を得られるが、ドイツ国籍取得は近年容易になった。ほとんどのEU加盟国はEU内の二重国籍を認めており、2024年以降はEU以外の国の出身者も二重国籍保持が許される。帰化後に当選した議員も増えている。
移民的背景のある人々を代表する統合評議会
連邦統計局によると、ドイツ国籍を持たない在住者は2024年末時点で全体の14.8 %を占めている。選挙権は認められなくても、外国人も労働者として社会の一翼を担い、税金や社会保障を納めており、民主主義の原則上、その使途に関して意見を表明する場があるべきだと考えられてきた。
そのため、1970〜80年代、各地の自治体で「外国人議会」や「諮問委員会」といった組織が設けられるようになった。それが全国で制度化され、州によって仕組みは異なるものの、現在は400程度の自治体で「統合評議会」という諮問機関が設置されている。移民的背景のある人が中心となって行政や議会に意見書や提言を提出し、移民に影響を与えるあらゆる決定に意見を表明する。
早い時期から外国人労働者が増えたノルトライン・ヴェストファーレン州では、自治体法によって、外国人住民が 5000 人以上いる自治体での統合評議会設置義務を定めている。同州では1994年から「外国人評議会」設置が制度化されたが、より広く移民的背景のある人全体の利益を代表するものとするため、2010年に名称が変わった。評議会による提言等が行政に対して拘束力を持つわけではないが、移民的背景を持つ子どもたちや難民の支援、反差別運動、多文化共生の推進など、幅広い活動に携わる。
同州の統合評議会は移民代表と、市議会から委任された議員によって構成されている。移民代表には、その自治体に3カ月以上住み、かつドイツに1年以上居住する18歳以上が立候補でき、国籍要件はない。選挙権は1年以上ドイツに住む16歳以上の外国人と、帰化した元外国人など移民的背景のある人の一部に与えられる。ドイツでEU市民以外の移民が投票できる唯一の選挙である。
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