外務省の知的交流事業で西アフリカ仏語圏のベナン、セネガル、ギニアを訪問した。3カ国それぞれの大学等で計5回の講演を行い、加えて現地シンクタンク・研究機関での意見交換会、外交官・国際機関高官との各種会合、メディア対応などを行う充実した内容であった。
私自身は、紛争分析や国際平和活動への関心の観点から、過去に何度も西アフリカ諸国を訪れてきている。ただ私が研究者になってからの25年ほどの間だけでも、この地域の様子はだいぶ変わった。
ロシアや中国の影響力の浸透といった外部から見た切り口で参照される場合を除いて、西アフリカに関するニュースが日本で取り上げられる機会は、基本的には非常に少ない。議論の基盤となる、共有できる情報さえ乏しいのが実情だろう。
本稿では、その間隙をわずかでも埋めるために、国際社会の全体動向の観点をふまえながら、訪問先3カ国を中心に、西アフリカ情勢の現状を取り上げてみたい。そこで注目したいのは、イスラム主義勢力の暴力的活動の高まり、非欧米の大国の影響力の高まり、そして欧米諸国(西アフリカ仏語圏諸国の場合は特にフランス)の影響力の減退だ。
重要性を増す西アフリカ沿岸部
今回、私が訪問した3カ国は、いずれも西アフリカ仏語圏の大西洋に面した沿岸部の諸国だ。これは偶然とは言えない。現在、日本や欧州諸国は、内陸部のサヘル地域の諸国のクーデター政権とは、持続的な関係を見出せる状態にないからだ。自然に沿岸部の諸国との関係が重要に見えてくる。
換言すれば、西アフリカの沿岸部に、内陸の諸国が直面している混乱が広がってくることを防がないと、問題は増幅し、一層深刻になってしまう。テロ組織の活動や、頻発するクーデターに代表される政情不安は、沿岸部諸国においても潜在的には拡大していく要素が見られる。沿岸部諸国が、テロ組織の浸透を許さず、安定した国家運営を続けていけるかどうかは、西アフリカ全体の未来を決する問題だ。
日本としては、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を推進する政策的見取り図にそって、沿岸部のアフリカ諸国との間で、建設的な関与の仕組みを取り続けておきたい。まずは東側のインド洋に面した沿岸部諸国との関係が重要になるが、西アフリカの沿岸部諸国とも同じ動機付けで関係維持を図っておきたい。
「対テロ戦争」の余波
日本ではもうあまり話題になることはないかもしれないが、世界的規模の現象としての「対テロ戦争」は、終わっていない。震源地としての中東でも、パレスチナ問題とも結びついて、混乱が残っている。アメリカとイスラエルのイラン攻撃は、「対テロ戦争」の場外戦だが、無関係ではない。イランが「悪の枢軸」の一つとされたのは、ジョージ・W・ブッシュ大統領が、9・11テロ事件を受けたアフガニスタン侵攻を行った直後の2002年1月だった。
もっとも、アルカイダやイスラム国などに対するもともとの「対テロ戦争」の構図からすれば、現在の中東の度重なる戦争は、さらに新しい段階の出来事だ。現時点で、深刻な「対テロ戦争」の主戦場となっているのは、アフリカである。
もともと北アフリカはアラブ人の地域であり、中東と一体になった文明圏を形成している。東アフリカも、古来より中東の影響を受けやすい地域だ。そして北アフリカと東アフリカからの影響を受けて、「対テロ戦争」の最前線となったのが、西アフリカだ。
サヘル地域で一大勢力となっているJNIM(「イスラム・ムスリムの支援団」)、ナイジェリア北部を混乱に陥れているボコハラムやISWAP(「イスラム国西アフリカ州」)は、前者がアルカイダ系、後者が「イスラム国」系の組織的背景を持ち、国際的に広がるテロリストのネットワークを駆使している。
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