西アフリカ仏語圏の動揺は大西洋沿岸国にも及ぶのか(後編)|ベナン、セネガル、ギニアの実情と課題

執筆者:篠田英朗 2026年3月12日
タグ: 紛争
エリア: アフリカ
ベナンのタロン政権は、奴隷貿易で栄えたダホメ王国の歴史を観光資源化する政策などを進めている[クーデター未遂事件の後、タロン大統領を支持する集会に集まった人々=2025年12月10日、ベナン・コトヌー](C)AFP=時事
いまのところ情勢が比較的安定している大西洋沿岸国も、潜在的にはテロ組織の活動や政情不安といった内陸部サヘル地域と同じ懸念要素を抱えており、そこに各国固有の課題も加わっている。「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を推進する日本には、東側のインド洋沿岸部諸国との関係構築のみならず、大西洋側から西アフリカ仏語圏を見る視点が必要になる。

 

ベナン:与党が議席を独占、奴隷貿易を観光資源化

 前編で概説した西アフリカの全体情勢を念頭に、今回私が訪問した3カ国を、事例として取り上げてみよう。それら3カ国の中で、対テロ戦争の余波が一番具体的に及んできているのは、ベナンだ。

 ベナンは比較的安定した政権を維持できているが、事実上の首都コトヌーを中心とする沿岸部に政治経済の主な活動が集積しており、北部との格差が見られる。そこに北部で国境を接するブルキナファソ、ニジェール、ナイジェリアの騒乱の影響が及んできている。マリからはJNIMが、ニジェールからはISGS(「イスラム国サヘル州」)が、国境を越えてベナン領内に侵入してきている。密輸ネットワークの構築が主な目的とされ、ベナン人のほうでもテロ組織の呼びかけに呼応し、一定の連携関係を持つ動きがあるとされる。

 ベナン軍がテロリスト掃討軍事作戦を行っているが、広域ネットワークを持つテロ組織を撲滅するのは、難しい。国境を管理することだけでも、簡単ではない。兵士に負担がかかっているが、待遇面での不満が高まっているようだ。昨年12月に発生したクーデター未遂事件は、そうした不満を持つ兵士が首謀したものだった。

 クーデターを試みた兵士は、テレビ局を占拠して声明を出したが、パトリス・タロン大統領の殺害あるいは拘束には失敗した。タロン大統領の身辺警護は、精強なルワンダ軍兵士があたっている。隣国のナイジェリアは、クーデター派の拠点とされる軍宿営地に限定的ながら空爆を行った。そしてベナン軍によってクーデター派は駆逐された。

 タロン大統領は、約10年間の在任中に、独裁的な手法を強めてきた。3選を見合わせる代わりに議員任命制の上院を設立し、元大統領として自らも上院議員になって、影響力の維持を図ると見られている。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
篠田英朗(しのだひであき) 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学大学院政治学研究科修士課程、ロンドン大学(LSE)国際関係学部博士課程修了。国際関係学博士(Ph.D.)。国際政治学、平和構築論が専門。学生時代より難民救援活動に従事し、クルド難民(イラン)、ソマリア難民(ジブチ)への緊急援助のための短期ボランティアとして派遣された経験を持つ。日本政府から派遣されて、国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)で投票所責任者として勤務。現在も調査等の目的で世界各地を飛び回る。ロンドン大学およびキール大学非常勤講師、広島大学平和科学研究センター助手、助教授、准教授を経て、2013年から現職。2007年より2024年まで外務省委託「平和構築人材育成事業」/「平和構築・開発におけるグローバル人材育成事業」を、実施団体責任者として指揮。著書に『平和構築と法の支配』(創文社、大佛次郎論壇賞受賞)、『「国家主権」という思想』(勁草書房、サントリー学芸賞受賞)、『集団的自衛権の思想史―憲法九条と日米安保』(風行社、読売・吉野作造賞受賞)、『平和構築入門』、『ほんとうの憲法』(いずれもちくま新書)、『憲法学の病』(新潮新書)、『パートナーシップ国際平和活動』(勁草書房)など、日本語・英語で多数。
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