ホワイトカラーを除く建設労働者の36%が外国人
ドイツの建設業界では、高齢化でエンジニア・技能労働者ともに労働者が減り続けている。一方で建設ニーズは高く、住宅不足やインフラの老朽化への対応に加え、エネルギー効率を高めるための改修などの需要が増えている。
2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、ドイツでは景気が悪化し、原料費の高騰と金利上昇によって建設ニーズは抑制された。それでも2024年のドイツ商工会議所の熟練労働者に関する調査では、建設企業の53%が求人に苦労していると回答した。同協会による2025年初めの調査では、建設企業の64%が、技能労働者の不足を自社の成長に対するリスクとして挙げている。十分な人材が集められなければ建設プロジェクトが遅延し、コスト上昇や既存の従業員の業務負担増大を招き、業界の魅力度はさらに下がる。
結果として、外国人労働者への依存は高まる一方だ。ドイツ建設産業連盟によると、主要建設部門で雇用される従業員のうち、外国人の割合は2009年の8%から2024年には24%に上昇した。ホワイトカラーを除く技能労働者では外国人割合は36%にもなった。
下請けを担う東欧・西バルカン諸国出身者
日本と同様、工程が細分化されたドイツ建設業界では、プロセスごとに多様な下請け業者にアウトソースすることが多い。
ヨーロッパの移動労働者について研究・提言をする独「PECO研究所」の調査によると、従業員500人以上の大企業の建設プロジェクトにおける下請け企業への外注費は、2000年以降、建設費用の45%前後で推移している。特殊な機械を必要とする鉄道などの土木建設では自社従業員が従事するケースが多いが、ビルや住居などの建設は大部分が下請け企業に発注される。下請け企業はさらに安い企業に発注して利益を出そうとすることもあり、発注関係は非常に複雑だ。
国内で建設労働者数が伸び悩む一方、移動の自由を掲げるEU(欧州連合)の東方拡大によって、東欧の労働者がドイツで働くことが容易になった。下請け企業は、より高い賃金を求めて東欧やバルカン諸国からドイツに働きに来る労働者を直接雇用するか、あるいはそれらの国からの派遣労働者を使用している。
建設業の派遣労働者数は2009年の5万人から2024年には8.6万人 に増えている。派遣労働者は、数週間から数カ月の一定期間、建設現場に派遣され、少なくともドイツの最低賃金が支払われることになっている。ポーランドやルーマニアやブルガリア、クロアチアなどのEU加盟国の他、EUに加盟していない西バルカン諸国出身者も多い。ドイツは2016年にアルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナなど6カ国を対象とする「西バルカン規制」を導入し、この地域から当初は年間2.5万人、現在は最大5万人の労働者を受け入れている。
熟練労働者を「ヘルパー」として登録
下請け企業が安さを求められる結果、現場で働く従業員に皺寄せが行く。元請け業者は、ドイツで働く労働者に対しては国籍にかかわらず業界で定められた協定に基づく賃金、少なくとも最低賃金(2025年は時給12.82ユーロ)が支払われることを保証しなければならない。しかし、実態としては下請けチェーンの末端にいる労働者には最低賃金も社会保険料も払われないことが少なくない。連邦雇用庁の労働市場・職業研究所は2011年、税金や社会保険料の支払い逃れのために不正申告している建設労働の割合が30~40%にも及ぶと推計した。
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。