
運転手不足による路線バス廃止のニュースが日本各地で相次いでいる。そんな深刻な人材不足に対応するため、2024年3月、特定技能制度に「自動車運送業」の追加が決定された。今後は日本でも、タクシーやバス、トラックの外国人運転手を目にすることが増えるだろう。
同様に労働者が不足するドイツでも、運輸業には移民的背景(Migrationshintergrund:本人もしくは両親のどちらかが生まれながらのドイツ人ではない出自)を持つ働き手が大幅に増えている。バスやトラムなどの運転手での移民割合は高まっており、新規に採用する運転手の大半は移民的背景のある人たちだというエッセン市のバス会社に、その実情を聞いた。ドイツ語があまり話せなくても仕事をできるよう、働く環境を変えているという実態が見えてきた。
バス・路面電車の運転手の半数近くが移民系
少子高齢化に伴う労働者不足に悩まされているドイツ。特に1960年代生まれのベビーブーマー世代の退職に伴い、現在、熟練労働者の不足が広い業界で顕在化している。そのため、ドイツの組織は外国から働き手を積極的に受け入れるほか、国内にすでにいる移民に訓練を提供し、労働者にする努力を続けている。
第二次世界大戦後から他の欧州の国やトルコなどの国々から多くの労働者を受け入れたドイツは、移民社会としての歴史が長い。移動の自由を保証するEU諸国から多くの人が働きにやってくるほか、近年では中東やウクライナからそれぞれ100万人以上の難民を受け入れ、移民は増えつづけている。ドイツ連邦統計局によると、ドイツ国籍を持たないドイツ在住者の割合は、2023年末時点で15.2 %にも及ぶ。さらにドイツ国籍を持つ移民1世・2世を合わせると、移民的背景のある人は全体の約30%にものぼる。
仕事を持たずにドイツにやってくる移民も多いことから、労働力不足の職種につけるよう彼らに訓練を提供し、熟練労働者として育て上げることが期待されている。なかでも、言葉にそれほど依存しない運輸業の運転手は、外国人労働者の割合が高い。連邦統計局によると、2023年、バスや路面電車の運転手の46%、配送業・運輸トラックの運転手の37%に移民的背景があった。
運転手はドイツ全体で継続的に不足しており、地域交通の運転手は、2022年、ドイツ全体で求人を出しても十分な採用ができない「ボトルネック職種」に認定された。筆者の住む地域でも運転手の不足により、バスの運行間隔が20分から30分に広がったことがあった。
温暖化が進むいま、自家用車ではなく公共交通機関の利用が奨励され、サービス拡充が望まれている。その一方で、労働組合は労働時間の短縮を求めており、ベビーブーマー世代の一斉定年退職も控えることから、運転手の採用を大幅に増やす必要がある。2021年、ドイツ交通企業協会は2030年までに全国で11万人の運転手の採用が必要だと試算した。
ドイツ西部の地域交通を運営するライン・ルール運輸協会(VRR)などは、海外からの熟練労働者の受け入れを連邦政府に要請しているが、それもすぐに確保できるものではない。そのため、各社とも未経験の人材を採用して訓練を提供し、運転手として育て上げるプログラムを実施している。
従業員の出身国は40カ国以上
なかでも、西部の旧ルール工業地帯の中心地、エッセン市と隣のミュルハイム市でバスとトラムなどの地域交通を運営するルールバン社は、移民の採用に非常に積極的だ。エッセンでは移民的背景を持つ人の割合が2024年で38%と、全国平均よりも高い。
同社運輸部門リーダーのトーベン・スクバラ氏によると、毎年200人の運転手を採用している。正確なデータはないものの、そのうちおそらく7〜8割は移民的背景を持つ人だという。現在同社に所属する運転手は1300人ほどいるが、その出身国は日本も含め40カ国以上にも及ぶ。
「かつて運転手はほとんどが移民的背景のないドイツ人で、イタリア系など、他のヨーロッパ移民がいるくらいでした。しかし、近いうちに運転手の7割が移民背景のある人になるようになります」

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