ドイツ「左翼党」が若い女性の支持で急伸 右傾化・高齢化に抗う人々の受け皿に

執筆者:駒林歩美 2025年3月14日
タグ: ドイツ
エリア: ヨーロッパ
左翼党(Die Linke)の顔であるハイジ・ライヒネック氏(左)のTikTokフォロワー数は60万人を超える[同党の共同代表ヤン・ファン・アケン氏(中)、イネス・シュヴェルトナー氏(右)とともに=2025年2月24日、ドイツ・ベルリン](C)AFP=時事
ドイツ連邦議会選では極右AfDの大幅な伸長が注目されるが、「左翼党」が若年層女性から大きな支持を得たことも見逃せない。旧東独の社会主義統一党をルーツに持ち、長らく高齢者を支持基盤としてきた同党だが、ヴァーゲンクネヒト(現BSW党首)ら主要政治家の離党で党勢が衰えていた。しかし、昨秋に30代の女性が共同代表に就任すると、SNSを通じた広報戦略で支持率を回復し、一気に議席を倍増させた。

二極化する若者

 2月23日のドイツ連邦議会選挙の結果、保守政党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が28.52%を得票して第一党になった。しかし、極右政党・ドイツのための選択肢(AfD)が前回2021年の連邦議会選挙の倍となる20%以上を得票して第2位になったことで、社会に動揺が広がっている。

 一方、調査機関インフラテスト・ディマップの出口調査によると、18歳から24歳の若者から25%と最も多くの票を得たのは左派政党の左翼党だった。それに次いでAfDが21%の票を得た一方、中道のCDU・CSU、中道左派の社会民主党(SPD)、環境政党・緑の党の得票はそれぞれ13%、12%、10%と低かった。緑の党は前回の連邦議会選挙で若者から最も高い支持を得たものの、政権入りしてより中道になり、十分な変化を起こせなかったために、若者からの得票が半分以下にまで落ち込んだ。若者の中道政党に対する支持が下がり、右と左に分断されていることが見えてくる。

 

 

 また、今回の選挙での若者の投票政党には性差がはっきり見られ、AfDに投票したのは男性が多い。前述の出口調査によると、18〜24歳の男性の25%がAfDに投票した一方、女性では14%だった。一方、同世代の女性のうち34%と最も多くが投票したのは左翼党だった。若い男性が保守化する一方、若い女性はリベラル化するという、英米や韓国などの他国で見られる傾向がドイツでも目立つようになってきた。AfDや左翼党はそれぞれ急進的な変化を求めるが、その方向が左右に分断してしまっているのだ。

 たとえば、女性の権利についても、伝統的な家庭内での性別役割分担を重視するAfDは純粋な白人ドイツ人による出生を奨励し、女性にはキャリアよりも子育てに集中することを求めてきた。一方、左翼党はフェミニズムを主要テーマの一つとし、伝統的な性別役割分担に反対し、男女の平等を訴えてきた。そんなところからも、危機感を持った若い女性が左翼党に惹きつけられる理由も見えてくる。

70万票が緑の党から左翼党へ

 実は選挙前の1月末まで左翼党への支持は4%にとどまっていた。連邦議会で議席を得るための最低得票率である5%さえ集められないのではないかと予想されてきたが、選挙直前に急速に支持を集めて全体の8.77%を得票し、議席も倍以上となる64まで増やした。同党ウェブサイトによると、前年半ばには党員数は5万2千人程度だったが、独紙「フランクフルター・ルンドシャウ」によると、選挙直後には10万人を超えた。これは2007年の結党以来最大で、AfD党員数5万人強の倍に当たる。

 この急速な支持高まりの背景にあるのは、社会の急な右傾化に対する不安、左翼党リーダーの刷新、若者をターゲットにしたソーシャルメディア戦略だ。CDUのフリードリッヒ・メルツ党首は、難民申請者などによる無差別殺人事件が立て続けに起きたことで、不法入国する外国人の取り締まりや送還の強化など、難民政策の厳格化を求めてきた。1月29日、国境および亡命規則の厳格化を連邦政府に求める決議案を提案したCDUは、AfDの支持を受けて可決させた。しかし、極右政党との協力は第二次世界大戦以降、ドイツの政党にとってのタブーとされてきたことであり、ドイツ社会に大きな衝撃が走った。

 その日、議会でメルツを最も痛烈に批判したのは、左翼党の連邦議会スポークスパーソンを務めるハイジ・ライヒネック共同代表(36)だった。演壇に立ったライヒネックは、「キリスト教民主主義政党が極右政党と協力するなんて、想像すらできませんでした」「アウシュビッツ解放記念日で犠牲者に思いを馳せたあと、たった2日後に、同様のイデオロギーを持つ政党とあなたは協力したのです」と激しくメルツを非難し、「この国のファシズムに抵抗しよう、バリケードで」で締めくくる演説は拍手喝采を受けた。

 

 この動画は3月10日現在、TikTokで計1400万回近く、インスタグラムで1600万回ほど再生されている。また、AfDとの協力というタブーを犯したCDUに対してはその直後に抗議デモがドイツ全土で起こり、1月末の週末にはベルリンで16万人が参加したという。独誌「シュピーゲル」によると、この1月29日だけで、1万7470人が新たに左翼党員として登録した。1月以降に入党した人の平均年齢は28歳で、新入党員の半数強は女性だそうだ。

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カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
駒林歩美(こまばやしあゆみ) ドイツ在住のフリーランスライター。東京大学卒業後、コンサルティング会社、東南アジアでの勤務を経てヨーロッパに移住後、フリーランスに。講談社『クーリエ・ジャポン』などのメディアで、欧州事情やドイツ社会について伝える。オランダ・エラスムス大学経営学修士、英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン 教育大学院 教育学修士。
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