エプスタインを通してつながるロシアと日本――インテリジェンス研究者から見たネットワーキングのリスク(後編)

執筆者:保坂三四郎 2026年2月27日
エリア: グローバル
2014年4月、伊藤穰一氏はオバマ政権の対露制裁に関する記事を転送し、エプスタインに相談を求めている[MITメディアラボ所長時代の伊藤氏=2011年6月撮影](C)Nicolas Czarnecki/ZUMAPRESS.com Wire via Reuters Connect
伊藤穰一氏が性的人身売買に関与していたとの説に根拠はない。だが、伊藤氏がエプスタインに最も近い人物の一人であったことは、「エプスタイン文書」の大量の記述から明らかだ。伊藤氏はいわば、そのネットワーキング活動の過程で、人脈をロシア情報機関と“シェア”してしまった。先端技術の開発や政策立案にアクセスを持つ有力者がプーチン体制・ロシア情報機関との関係が疑われる者たちと接点があった事実は、経済安全保障の観点において懸念を呼ぶ。

 

エプスタインに最も近い友人「Joi」

 伊藤穰一は、日本人として初めてマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの所長を務めたが、2019年8月のエプスタインの死亡と疑惑に関する報道を受け、エプスタインから多額の資金提供を受けていたことを認めて同所長を辞任した。MITのウェブサイトに掲載された謝罪文では、伊藤は2013年にビジネス上の知人を通じて知り合ったエプスタインを、MITメディアラボの資金調達活動の一環としてラボに招き、また彼の複数の居宅を訪れたと告白した。

 一方、伊藤は、エプスタインとのやり取りにおいて「エプスタインが告発されているような恐ろしい行為に関与したことは一切なく、彼がそうした行為について話すのを聞いたこともなく、そのような行為を示す証拠を目にしたこともありませんでした」と釈明した。

 伊藤は、2021年9月発足のデジタル庁で事務方トップ(デジタル監)への就任がほぼ内定していたが、当時の菅義偉政権は伊藤の過去を問題視して起用を見送った。しかし、エプスタイン文書が示すのは、エプスタインと伊藤のつながりはMITメディアラボへの資金提供にとどまらないということである。

 伊藤は、エプスタインやその「アシスタント」たちと家族ぐるみのつき合いがあり、エプスタインに最も近い人物の一人であった。例えば、伊藤はエプスタインの最後の恋人カリーナ・シュリアク(エプスタインが死の前に1億ドルの遺産を託したといわれる)74らが作っていた2015年のエプスタインの誕生日向けメッセージを依頼されている75。「ジェフリーとの食事の思い出」をショートストーリーで綴ってほしいというこのリクエストは、特に親しい友人向けだったことが窺える。

 伊藤夫妻は、2016年のシュリアクともう1名(黒塗り)の日本旅行の手配を支援した(京都の「Tea House」予約等)76。また、エプスタインやシュリアクは伊藤夫妻の娘の誕生を祝福している77

 伊藤も、ロシアのベリャコフと同様、エプスタインの国際的人脈から恩恵を受けようとした。2015年10月のメールで伊藤は、シリアの刑務所にいる友人のソフトウェア開発者を助けたいと述べ、独裁者バッシャール・アル・アサドに影響を及ぼせる人物を知らないかと聞いている。これに対しエプスタインは、(機微な質問ゆえに)メールでは答えられないと返信した。この後、二人がこの件についてどういうやりとりをしたかは不明である78

カテゴリ: 経済・ビジネス 政治
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執筆者プロフィール
保坂三四郎(ほさかさんしろう) 国際防衛安全保障センター(エストニア)研究員 1979年秋田県生まれ。上智大学外国語学部卒業後、2002年在タジキスタン日本国大使館、04年旧ソ連非核化協力技術事務局、18年在ウクライナ日本国大使館などの勤務を経て、21年より現職。専門はソ連・ロシアのインテリジェンス活動、戦略ナラティブ、歴史的記憶、バルト地域安全保障。17年、ロシア・東欧学会研究奨励賞。22年、ウクライナ研究会研究奨励賞受賞。主な著書に『諜報国家ロシア ソ連KGBからプーチンのFSB体制まで』(山本七平賞受賞、中公新書)。
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