鉱物資源をどう確保するかは主要国に共通した悩みだが、とりわけハイテク製品の生産に必要な希土類元素(レアアース)に関しては、その生産を中国が一手に担っているため、中国産のレアアースへの依存をどう軽減させるかが大きなポイントとなる。この観点から主要国が取り組もうとしている取り組みの一つに、自主鉱山の開発がある。
日本の場合、南鳥島沖の海底にあるレアアース泥の商業生産に向けた取り組みが進められている。また米国の場合、大量のレアアースが埋蔵されているというグリーンランドへの野心を隠そうとしない。一方、欧州連合(EU)も、域内外での自主鉱山開発を進めようとしているが、EU域内では、どのような場所にレアアースがあるのか。
EUはレアアースを含む鉱物を重要原材料(CRM)と位置付け、その安定供給の実現を目指している。このCRMがEU域内のどのようなところに埋蔵されているかを図示した地図を見ると、火山活動と金属鉱脈の関係からして当然のことだが、EU域内におけるCRMの埋蔵地は主要な山脈に沿って立地していることが分かる(参考資料)。
CRMは、要するに、東はタトラ山脈やカルパチア山脈、西はピレネー山脈やセントラル山系、南はアルプス山脈やバルカン山脈、北はスカンジナビア山脈といったEU域内の主要な山脈・山系に埋蔵されていると期待されている。当然ながらCRMの中にはレアアースも含まれており、EU域内の主な山脈・山地での採掘が期待されている。
一方、EU域外の欧州に目を向けると、ウクライナ東部のドネツク丘陵地帯にも多くの鉱物資源が埋蔵されていることが分かる。意外と知られていない事実だが、ウクライナがロシアと交戦状態に入る前から、EUはウクライナの鉱山開発に関心を示していた。こうした鉱物資源を巡る思惑もまた、EUがウクライナを重視する1つの理由である。
環境・人権コストを「外部化」できる側面も
ウクライナとロシアが交戦状態に入ったのは2022年2月24日のことだった。その1年半前、EUは欧州原材料同盟(ERMA)と呼ばれる官民協業の共同体を創設していることは、あまり知られていない。このERMAの下、EUは 域内外で鉱山の自主開発を推進するとともに、再利用(リサイクル)のシステムを構築すると謳っていた。
このERMAには、EU各国や企業のみならず、第三国の政府や企業が参加している。そうした国の中に、EUを離脱した英国や、カナダやオーストラリアといった資源国もさることながら、ウクライナも含まれている。ウクライナの政府機関としては、国家地質地下資源局や環境保護・天然資源省、エネルギー省といった鉱物採掘に関係する省庁がERMAに参加した。
民間企業では、BGVグループやマイン・エクストラクション社、ウクライナ非鉄金属社(LLC Nonferrous Metals of Ukraine)といった大手の採掘会社が参加している。こうした川上部門に属する企業の参加からも、EUがウクライナにおける鉱山開発と、それを通じたレアアースなどのCRM確保に期待を寄せていたことが窺い知れる。
レアアースを精錬する過程では、多大な環境コストと人権コストが発生する。金属の酸洗のためには硫酸を要するが、それに伴い大量の廃硫酸が発生する。トリウムなどの放射性廃棄物も排出され、適切な対策がとられなければ、それらによって深刻な土壌汚染や水質汚染が生じる。精錬に関わる技術者のみならず、鉱山の近隣に住む人々の健康も害されかねない。
中国製レアアースの強みは、そうした環境・人権コストを住民に“押し付ける”ことで、低価格を実現していることにある。
「フォーサイト」は、月額800円のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。