ドイツで強まるクラウディングアウトの圧力
3月17日付の米ブルームバーグは、ドイツ政府が6000億ユーロ(約110兆円)の防衛予算を投じるため、ドイツの景気回復に弾みがつく可能性があると報じた。またブルームバーグは、2028年までに防衛産業が経済成長率を0.5%押し上げるとの、スイスの有力銀行UBSのアナリスト、フェリックス・ヒューフナー氏の見方を紹介した。
確かに、ドイツでは多くの防衛関連企業が政府からの受注を増やしており、業績が改善している。代表的な企業はラインメタルだ。2025年の売上高は前年比3割増の99億ユーロに達し、営業利益も18.4億ユーロと前年から4.5億ユーロ増加した。こうした好調な業績を反映し、同社の株価は2025年の年明け以降、約2.5倍に上昇している(図表1)。
とはいえ、日本が実感しているように、企業が利益を稼いだからといって、景気は必ずしも良くなるわけではない。企業の業績が改善したところで、その所得が国民に配分されるとは限らないためだ。現に、ラインメタルが生産を強化しているのは、ドイツ国内の工場というよりも、ウクライナやウクライナに近い中東欧の国々の工場だ。
それ以上に問題なのが、軍需向けのモノやサービスの生産が、民需向けのモノやサービスの生産を圧迫するクラウディングアウトが生じることである。ヒト・モノ・カネといった生産要素は有限だ。そもそも公需向けのモノやサービスの生産を優先すれば、民需向けのモノやサービスの生産に割り当てるヒト・モノ・カネの量は減るが、とりわけ軍需はその効果が強いことで知られる。
生産が後回しにされた民需向けのモノやサービスの価格は上昇するから、それが消費を下押しする。つまり、軍需は民需を圧迫するのである。実際、ラインメタルは民生品部門を売却し、軍事品部門へ生産資源を集中する方針を示している。民生品部門を抱える余裕をなくしたためだが、軍需が膨らめば膨らむほど、こうした力学は強くなる。
軍需ケインズ効果を使い果たしたロシア
歴史的に、旺盛な軍需が景気の加速につながるのは、せいぜい1-2年のことだ。この間は、膨張した軍需の牽引力が圧迫された民需の抑止力を上回る。いわゆる軍事ケインズ効果だが、その牽引力が徐々に弱まり、抑止力を打ち消すことができなくなってしまう。そして、景気停滞と物価高進が併存する軍事スタグフレーションに、経済は陥るのだ。
ロシアが現在、まさにこうした状況に直面している。ウクライナ侵攻後、主要国からの経済・金融制裁を科されたロシアの景気は腰折れした。一方、軍需が急激に膨張したことで景気は急回復し、2023年と2024年は4%以上の経済成長を実現した。しかし軍事ケインズ効果の一服を受けた2025年以降、成長は1%台まで失速している。
もちろん、これは程度の問題である。実際に戦時経済に突入しているロシアと、まだ平時経済であるドイツにおいて、軍需向けのモノやサービスの生産が持つクラウディングアウト効果の強さは異なる。裏を返せば、戦火を交えてない以上、ドイツに生じる軍事ケインズ効果も限定的となる。要するに、期待が先行し過ぎているのである。
そもそも、基本的に平時経済であるドイツにおいて、戦時経済を念頭に置く動きは漸進的・段階的にしか進まない。防衛体制の充実は、いわば中長期的な課題だ。一方、ドイツが今、短期的に改善しなければならない課題は、経済活動の“血液”であるエネルギーの問題である。そもそもこの問題の改善なしに、防衛体制の充実は図れない。
イラン情勢が緊迫化する前から、ドイツのエネルギー政策は破綻していた。
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