「西アジア」地域情勢にアフガニスタン・パキスタン戦争が持つ意味――パキスタン軍部の現状認識とアプローチを中心に

執筆者:青木健太 2026年4月16日
カテゴリ: 軍事・防衛
エリア: アジア 中東
パキスタンは強大な軍事力と時宜を得た仲介外交によって、西アジア地域で特別な存在感を示している[パキスタン代表団を率いてイランを訪問したムニール陸軍元帥(中央左)と、出迎えるイランのアッバス・アラグチ外相(右)=2026年4月15日、イラン・テヘラン](C)AFP=時事 / Iranian Foreign Ministry
米イスラエル・イラン戦争の仲介役を担うパキスタンは、他方で隣国アフガニスタンとの軍事衝突を続けている。今年2月27日、すなわち米イスラエルによるイラン攻撃の前日には、アフガニスタンの首都カブールの空爆を実施した。首相を上回る力を持つムニール陸軍元帥がトランプ米大統領と親密な関係を築き、イランに次ぐイスラム教シーア派人口を国内に抱え、サウジアラビアとは相互防衛協定を結ぶこの西アジア唯一の核保有国は、どのような意図と戦略のもとで地域情勢に関与しているのか。

 パキスタン軍機が、隣国アフガニスタンの首都カブールを空爆した——2026年2月27日未明に衝撃的なニュースが伝えられた。同日、パキスタンのハワジャ・ムハンマド・アーシフ国防相は、タリバンの不十分なテロ対策に我慢の限界を迎えたとして両国は「開戦」状態にあると宣言し、ここにアフガニスタン・パキスタン戦争の火蓋が切られた。

 核保有国パキスタンと、アフガニスタンを実効支配するタリバン政権とのこの戦争は、将来的に近隣諸国、ひいては南西アジア地域から中東地域までをも包含するより広範な「西アジア」地域に多大なる影響を及ぼす危険性がある。それにもかかわらず、翌2月28日に始まった米イスラエル・イラン戦争によって、その動きについて日本ではほとんど報じられていないのが実情だ。

 アフガニスタン・パキスタン戦争はなぜ始まり、今後どこへ向かうのか? 本稿では、パキスタン軍部、および、タリバン政権の思惑を読み解くことで、この戦争の評価と展望を述べたい。

西方に「戦略的縦深」を求める軍部の古典的安全保障観

 まず、アフガニスタンへの越境攻撃に踏み切った、パキスタン軍部がいかなる思惑を有するのかについて考えたい。

 はじめに、本稿では、パキスタン軍部を、パキスタン軍(陸、海、空)、準軍事組織、並びに、軍統合情報局(ISI)を含めた総体を指すこととし、文民政権と対置して用いる。同国では、2008年のムシャラフ政権失脚以降、文民政権が今まで続いているものの、1947年の独立以来、合計約30年間は軍事政権下にあったため、現在でもパキスタン軍部が非常に強い影響力を国内で有している。

 国土が南北に長い一方で東西に狭いパキスタンは、東方に位置するインドとの正面作戦に入った時に、自国の西方に兵站供給地を確保する「戦略的縦深」(strategic depth)の観点から、アフガニスタンに親パキスタンの政治体制を育成・確保する必要があると考えてきた。これをパキスタン軍部の古典的安全保障観と呼ぶことができる。

 ソ連のアフガニスタン侵攻期(1979~89年)、米中央情報局(CIA)からムジャヒディン(聖戦士)に供与される武器・弾薬・資金などの資源は、ISIを経由してスンナ派主要7派閥に分配された。その受け取り先の筆頭は、アフガニスタン国内で大きな力を持っていたグルブッディン・ヘクマティヤール(パシュトゥーン人)率いるイスラム党であった。

 1977~2001年までサウジアラビア総合情報局長を務めたトゥルキー・ファイサル王子は、ISIのヘクマティヤールに対する信頼が失われていたまさにその頃、タリバンが南部カンダハールから台頭しその支持を得たと著述している(Turki, The Afghanistan File, 2021, P.146)。

 その後も、ISIがタリバンを、潜伏先や資源の供与を含め、水面下で支援していることは公然の秘密とされてきた。つまり、パキスタンとタリバンは、つい最近まで蜜月関係にあったといえる。

 それが大きく変化したのが、2021年8月15日のアフガニスタン政権崩壊

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執筆者プロフィール
青木健太(あおきけんた) 笹川平和財団和平調停センター主任研究員 1979年東京生まれ。上智大学卒業、英ブラッドフォード大学大学院平和学部修士課程修了。専門は、現代アフガニスタン・イラン政治。中東調査会研究主幹、国連アフガニスタン支援ミッション政務官など歴任。著作に『タリバン台頭』(岩波書店、2022年)、『アフガニスタンの素顔』(光文社、2023年)、『中東ユーラシアから世界を読む』(岩波書店、2025年、共編)他。
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