ウクライナ停戦・和平の論点
ウクライナ停戦・和平の論点 (6)

不可能な方程式としての「安全の保証」

執筆者:鶴岡路人 2026年3月6日
タグ: ウクライナ NATO
エリア: ヨーロッパ
ウクライナのNATO加盟問題は、NATO自身の本質を問うことにもつながる[ミュンヘン安全保障会議の公開討論に臨むNATOのマーク・ルッテ事務総長(左)とウクライナのゼレンスキー大統領(右)=2026年2月14日](C)EPA=時事
ウクライナへの最も確実な「安全の保証」はNATO加盟だ。それが分かっていながら、NATO加盟無しに「NATO並み」の保証を実現しようとするために、不可能な方程式になってしまう。ウクライナのNATO加盟が困難である理由としては、ロシアの反対が常に指摘されるが、根本に横たわるのは、ウクライナ防衛のためにロシアと戦う準備ができているのかという問題である。そうした準備がないのだとすれば、最も確実な「安全の保証」はウクライナ軍自身の能力ということになる。そのため、ウクライナ軍への支援継続こそが、この方程式の現実的な「解」になる。

 ロシアによるウクライナ全面侵攻が5年目に入るなか、停戦・和平をめぐる議論の焦点の一つは、引き続き「安全の保証(security guarantee)」である。停戦や和平が実現したあとのウクライナの安全の確保が目的であり、主たる柱はロシアの再侵攻の抑止と、再侵攻が起きた際の対処である。

 では、安全の保証を確保するにはどうすればよいのか。これが問われ続けてきたものの、最も効果的な方策は、実は明確である。NATO(北大西洋条約機構)への加盟だ。答えが分かっていながら他のやり方を探そうとするために、なかなかまとまらない。「NATO並み」の保証を求めつつ、「NATO加盟未満」でそれを実現しようとしている。そのため、結局不可能な方程式になってしまう。

 以下では、なぜNATO加盟が難しいと考えられているのかを出発点に、ウクライナへの安全の保証の課題とその構図を分析する。結論を一部先どりすれば、法的な側面では、安全の保証へのコミットメントの度合いが焦点になるが、実質的には、ウクライナ自身による対露抑止・防衛態勢の強化が、安全の保証を支える最も確実な要素になる。

 なお、「安全の保証」の一部として、英国・フランスを中心とする有志諸国が、ウクライナに部隊を派遣する案を検討しており、「保証部隊(reassurance force)」と呼ばれている。これについては別稿で論じることにしたい。

「言い訳」としてのロシアの反対

 繰り返すが、ウクライナへの最も確実な「安全の保証」はNATO加盟だと考えられている。この点については、ウクライナのNATO加盟への賛否にかかわらず、事実上のコンセンサスがあるといってよい。「NATO並み」を探るという発想自体、NATO加盟が最善の姿であるとの認識を反映している。ウクライナもNATO加盟を望んでいる。

 もっとも、ドナルド・トランプ政権の発足後、欧州各国において米国によるコミットメントへの信頼性が疑問視されるなかで、NATO加盟が絶対的な解決策になるかについても問い直される必要があるかもしれない。しかし、NATOでも安全が保証されないとすれば、現在の加盟国の安全も崩壊してしまうため、とりあえずはNATOを基礎に考えざるをえないのが現実だ。とはいえ、それは幻想にしがみついているのではなく、少なくとも現時点では、他の考えられる代替策と比べ、NATOが最も信頼性の高い安全保障枠組みであることは依然として否定できない。実際、ロシアはNATO加盟国への明確な軍事力行使を控えており、抑止は依然として機能していると考えられる。

 そのうえで、なぜウクライナは当面NATOに加盟できないのか。「現在戦争中である国を入れることはできない」との主張も聞かれるが、停戦前にウクライナを加盟させるべきだとする意見はNATO内には存在しないため、空想の敵と戦うようなすれ違いの議論になっている。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
鶴岡路人(つるおかみちと) 慶應義塾大学総合政策学部教授、戦略構想センター・副センター長 1975年東京生まれ。専門は現代欧州政治、国際安全保障など。慶應義塾大学法学部卒業後、同大学院法学研究科、米ジョージタウン大学を経て、英ロンドン大学キングス・カレッジで博士号取得(PhD in War Studies)。在ベルギー日本大使館専門調査員(NATO担当)、米ジャーマン・マーシャル基金(GMF)研究員、防衛省防衛研究所主任研究官、防衛省防衛政策局国際政策課部員、英王立防衛・安全保障研究所(RUSI)訪問研究員などを歴任。著書に『EU離脱――イギリスとヨーロッパの地殻変動』(ちくま新書、2020年)、『欧州戦争としてのウクライナ侵攻』(新潮選書、2023年)、『模索するNATO 米欧同盟の実像 』(千倉書房、2024年)、『はじめての戦争と平和』(ちくまプリマ―新書、2024年)など。
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