首相肝いり「GSUC構想」に暗雲、米トップ大学が伊藤穰一氏の起用に“拒否権”発動

PERSONALS【人事情報】

2024年9月4日
タグ: 日本 岸田文雄
エリア: アジア 北米
表には一切名前を出さないまま、600億円近い予算が動く国家プロジェクトの“エグゼクティブ・アドバイザー”として活動する伊藤穰一氏[2018年12月19日撮影](C)時事
伊藤穰一氏は2021年に発足したデジタル庁の事務方トップへの起用が土壇場で撤回された人物だ。性犯罪者から資金提供を受けていた過去を当時の菅首相が問題視したためだが、岸田首相が力を入れる「グローバル・スタートアップ・キャンパス構想」の実質的トップにまたもや伊藤氏が起用され、連携相手である米MITから「NO」を突きつけられた上、ハーバード大からも疑問の声があがったという。

 2023年5月、広島G7サミットのために来日したジョー・バイデン大統領との日米首脳会談で、岸田文雄首相は「グローバル・スタートアップ・キャンパス(GSUC)構想」について熱弁を振るい、同構想実現に向けて両国が緊密に連携することを確認した。

 GSUCとは、2028年度以降、東京都心部に整備されるバイオテクノロジー、クライメット(気候変動)テック、AI(人工知能)・ロボティクスなど最先端技術の研究拠点。政府文書では設置目的について、〈ディープテック分野に特化した研究機能と国際標準のインキュベーション機能を兼ね備え、スタートアップ創出等の手法を通じて様々な社会的インパクトをグローバルに生み続けることを使命とする〉と謳われている。

「元々は防衛研究所や公安調査庁研修所などがあった、目黒区と渋谷区にまたがる2万平方メートル超の広大な国有地に創設されます。首相は首脳会談の話題にGSUC構想を盛り込むことにこだわっていました」(政府関係者)

 首相が米国大統領との会談でGSUCへの言及に執心したのは、同構想がマサチューセッツ工科大学(MIT)をはじめとした米トップ大学との連携を柱としているためだ。実際、同構想に関するほとんどすべての資料に「米国のリーディング大学であるMITと密に連携」といった文言が頻繁に登場する。

表には名前を出せない“影のトップ”

 しかし、ここに来て肝心のMITが同構想への協力に後ろ向きな姿勢を示しているという。

「その理由は、GSUCの実質的トップに“あの”伊藤穰一氏を据えようとしているからです」

 先の政府関係者はそう説明する。伊藤穰一氏といえば、2021年9月に発足したデジタル庁の事務方トップ・デジタル監への就任がほぼ内定したものの、直前になって当時の菅義偉首相が「待った」を掛けたため起用を見送られた、いわくつきの人物だ。伊藤氏は日本人として初めてMITメディアラボの所長に就任したが、少女らへの性的虐待などの罪で起訴された米実業家ジェフリー・エプスタイン元被告(後に死亡)から多額の資金提供を受けていたことが発覚し、同所長を辞任した。この「性犯罪者からの資金提供」という過去を菅首相が問題視したとされる。

 にもかかわらず、同構想の大部分は、「エグゼクティブ・アドバイザー」という肩書きを持つ伊藤氏が取り仕切っているのだという。なぜ伊藤氏はそれほど強い権限を持っているのか。

「政治的な意向が強く働いた結果です。甘利明元経産相はじめ自民党の実力者が伊藤氏を非常に高く評価しているため、政府内では誰も声を上げられない。デジタル監への起用が見送られた経緯から“表に名前は出さないように”と配慮されているものの、実質的に伊藤氏がGSUC構想のトップであることは間違いありません」

 GSUC構想のHPや、そこで公開されている関連資料のどれを見ても「伊藤穰一」の名前は一切登場しない。日本政府は伊藤氏の起用が“タブー”であることを認識しているがゆえに、“影のトップ”として扱っているかに見える。

「伊藤氏が重要な地位を占めるなら協力は困難」

 しかし、表に名前が出なければ万事スムーズに運ぶ、というわけにはいかなかったようだ。

 今年5月14~18日、新藤義孝スタートアップ担当大臣が訪米し、MITやハーバード大学の関係者とGSUC構想について協議している。公開されている資料では、両大学とも前向きな話し合いが行われたかのような印象だが、実態は異なる。特にMITからは、伊藤氏の起用に関して明確に『NO』を突きつけられたのだという。

 この時の新藤大臣の米国出張を記録した内部メモの抜粋によると、伊藤氏の起用に関して、MIT側から以下のような発言がなされていた。

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カテゴリ: 政治 IT・メディア
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