中国が見る米軍ベネズエラ攻撃の戦訓 「統合能力の格差」にどう動くか

執筆者:山口信治 2026年1月28日
エリア: アジア
中国は米軍のベネズエラ攻撃を研究するが模倣はしない[台湾封鎖を想定した過去最大の軍事演習「正義使命─2025」で中国人民解放軍東部戦区が公開した映像=2025年12月30日、場所不明](C)AFP=時事
米軍の「アブソリュート・リゾルブ作戦」は、ハイレベルなマルチ・ドメイン作戦の威力を見せつけた。人民解放軍の認識では、2024年の情報支援部隊設立でも課題解決を図った「システム・オブ・システムズ」(システムによって戦うという考え方)において、米軍との間になお大きな差があるとの判断につながるだろう。マルチ・ドメイン作戦に続く斬首作戦は中国にとっても理想的な「戦争の姿」だが、いま台湾作戦で踏襲する可能性は低い。

 2026年は、米軍によるベネズエラ侵攻とニコラス・マドゥロ大統領の拘束という衝撃的な事件で幕を開けた。2026年1月3日未明、米軍が実行した「アブソリュート・リゾルブ作戦(Operation Absolute Resolve)」は、マドゥロ政権をわずか数時間で機能不全に陥らせ、大統領夫妻の拘束を迅速に遂行した。中国はこの事件をどのように見ているのだろうか。米軍の作戦は中国の目にどのように映ったのだろうか。

中国との友好関係は体制の安全を保障せず

 今回の米国の軍事作戦が衝撃的だったのは、そのタイミングであった。作戦決行のわずか7時間前、中国政府のラテンアメリカ事務特別代表である邱小琪氏が率いる高官代表団がカラカスのミラフローレス宮殿を訪問し、マドゥロ大統領と会談を行っていたのである。   

 ベネズエラ国営メディアが公開した映像には、マドゥロ氏と邱氏が笑顔で握手を交わし、「いかなる嵐の中でも揺るがない兄弟のような結束」を確認する様子が収められていた。しかし、その直後に米軍特殊部隊による「斬首作戦」が実行された事実は、中国外交にとって耐え難い面子の喪失を意味する。

 中国とベネズエラは友好関係を長年にわたって構築しており、2023年には「全天候型戦略的パートナーシップ」へと関係を格上げした。中国外交において「全天候型」のパートナーシップを締結しているのはパキスタンなど6カ国しかないことからも、その重視が分かるだろう。

 中国は伝統的に他国の内政への不干渉を掲げてきたものの、近年ではその影響力がグローバルに拡大するなかで、自国にとって望ましい権威主義体制の存続を陰に陽に助けていると考えられてきた。しかし、今回の事件で、中国との友好関係が権威主義体制の存続には役に立たないことが明らかとなったといえるだろう。

インテリジェンスの失敗

 またこの事件が明らかにしたのは、ラテンアメリカにおける中国のインテリジェンス能力が高くないということである。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
山口信治(やまぐちしんじ) 防衛省防衛研究所地域研究部 中国研究室 主任研究官。専門は中国政治・安全保障、中国現代史、中国の党軍関係、米中関係。慶應義塾大学法学部卒業後、同大学院を経て防衛研究所に入所。2015年から現職。単著に『毛沢東の強国化戦略』(慶應義塾大学出版会、2021年、アジア太平洋賞大賞受賞)、共著に川島真・小嶋華津子編『習近平政権の目指す中国――理念・政策・課題』(東京大学出版会、近刊)、川島真編『ようこそ中華世界へ』(昭和堂、2022年)、『防衛外交とは何か―平時における軍事力の役割』(勁草書房、2021年)、『よくわかる現代中国政治』(ミネルヴァ書房、2020年)、『現代中国の政治制度-時間の政治と共産党支配』(慶應義塾大学出版会、2018年)、『中国対外行動の源泉』(慶應義塾大学出版会、2017年)などがある。
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