全土が戦時下にあるとはいえ、日本の1.6倍にあたる広大な面積を持つウクライナでは、地方によって置かれた状況も、抱える課題も異なる。前線に近く日々攻撃にさらされる北東部ハルキウや東部のドネツク州、ミサイルやドローンに狙われがちな首都キーウや南部オデッサなどに比べ、西部の諸都市は攻撃を受ける頻度が比較的少ない。もちろん「安全」とは言いがたく、時に攻撃の標的となって死者も出るが、一方で主な攻撃拠点のロシア本土からは距離があり、警報やアプリを通じて攻撃に関する情報を把握さえすれば、着弾する前に避難も可能だと考えられている。
ウクライナで普及している警報サービスの発令回数集計によると、2022年2月の全面侵攻から2026年2月24日までで、最も多いハルキウ州には7708回、次のザポリージャ州には7238回の警報が出されていた。オデッサ州は2859回、首都キーウ市内は2050回だが、西部のリヴィウ州は823回、最西端のザカルパッチャ州は712回と、大幅に減る。また、メディアでの爆発報告回数も、ヘルソン州が4573回に達したのに対し、リヴィウ州は112回にとどまった1。
空路を閉ざされ、人流も物流も陸路に頼るウクライナにとって、入り口にあたる西部の中心都市リヴィウは、欧米からの人々や物資が集まる中継地である。国外の企業や団体が拠点を構えるとともに、ウクライナ国内の他の地方から戦火を逃れる場合の行き先にもなっているという。その街を2025年9月に訪ねた。
午前9時の沈黙
ウクライナでは2022年の全面侵攻を受けて、多数の市民が国外に逃れたため、激しい人口減に見舞われた街が少なくない。その中で、珍しく人口を増やしているのがリヴィウである。本来の人口は70万人あまりで国内6~7番目あたりの都市だが、侵攻以降は国内第2の150万都市ハルキウから15万人が移るなど、避難民や移住者が急増した。2025年現在の人口は100万人に及び、国内第3の街オデッサに匹敵する。企業も、約280社が新たにリヴィウに拠点を定め、そのうち約60社がハルキウからである2。
活況の背景にあるのは、ウクライナ東部や北部に比べ比較的安全であるのに加え、ポーランド国境まで約60キロに過ぎず、支援物資の多くがここを経由することである。ウクライナとポーランドとでは線路幅が異なるが、国境からリヴィウまでポーランドの標準軌レールを敷設し、欧州からリヴィウまで直通運転の列車を走らせる計画も進んでいる3。同じ国境近くでも、ロシアから30キロあまりのハルキウとは根本的に事情が異なる。
前回この街を訪れたのは、全面侵攻からまだ1年が経たない2022年12月だった。24日クリスマスイブの夜で、キーウに向かう途中で1泊しただけだったが、街は停電で真っ暗だった。その少し前から、ロシア軍は発電所や変電所を集中して攻撃するようになっていたからだが、それでも市民は携帯の明かりを頼りに、凍える寒さの広場で談笑し、街頭コンサートを楽しんでいた。
それからすでに3年近くが経った街は、
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