池内恵の中東通信
池内恵(いけうちさとし 東京大学教授)が、中東情勢とイスラーム教やその思想について日々少しずつ解説します。
11月4日夜のサウジの王族・閣僚経験者・企業家の大量拘束で、アラブ世界全体に影響力を持つ汎アラブ・メディア産業の所有者たちが軒並み逮捕されたことは気になる。汎アラブ・メディアというとカタールが出資したアル=ジャジーラが有名だが、サウジの企業家・財閥も汎アラブ…
サウジのムハンマド皇太子が「汚職摘発」を掲げて断行した王族・企業家・財閥総帥の大量逮捕の目的や効果ははっきりしない。それが「軍・治安機構の統一」への一歩となりうることは先ほど記した。しかし企業家・財閥総帥の主要な人物を軒並み拘束していることは、ムハンマド皇…
深夜早朝に大胆な(あるいは衝動的にも見える)政策を実施して世界を驚かせるのが、サウジのムハンマド皇太子のトレードマークのようになってきた。11月4日の夜に「汚職摘発」を掲げて行った、有力王族・企業家・財閥総帥らの大量拘束にはどのような背景や目的があるのか、は…
10月5日のサウジのサルマーン国王のロシア・モスクワ訪問とプーチン大統領との会談で、もっとも耳目を集めたのはロシア製対空ミサイル・システムのS-400の購入に関する覚書が結ばれたことだろう。この案件はすでに今年4月に表面化していたが、首脳会談で改めて合意したことに…
キルクークをめぐるKRGとイラク中央政府の紛争について、ここのところの激変を注視しているが、「中東の部屋」ではKRGの油田開発へのロシア国営石油会社の進出について記してあった。その後、キルクークがイラク中央政府の支配下に入ったことで、ロシアのKRGとの契約はどうな…
米国に支援されクルド人民兵組織YPGを主体としたSDFがシリア東部のラッカを制圧したが、ここでSDFの実態がトルコの主張するようにトルコの反体制武装勢力PKKなのではないか、という疑いをいっそう深める事件があった。19日にラッカの街の中央広場で開かれたパレードで、YPGの…
10月20日、イラク政府軍部隊が、キルクーク県の北部でクルド人の自治区(クルディスターン地域政府=KRG)との境界にある町アルトゥン・キョプリュに迫り、反撃に出たクルド民兵組織ペシュメルガと戦闘を行ったという。"Iraq army seizes town near Erbil after fierce clashe…
10月14日にソマリアの首都モガディシュの中心部で発生したトラック爆弾による自爆テロの死者は300人を超え、さらに増えそうだ。"Death toll from Somalia bomb attacks tops 300," Reuters, October 16, 2017.ソマリアでは1980年代後半以来内戦が続き、イスラーム主義の過激派…
イラクではクルド人勢力が2014年以来拡張した領域を一両日で失うという大打撃を被ったが、同時期にシリアでは、クルド人勢力が「イスラーム国」の主要拠点のラッカを制圧し、戦果を誇っていた。10月15日には、シリアのクルド人民兵組織の民衆防衛隊(YPG)が主導し米国に支援…
キルクークをめぐってクルディスターン地域政府(KRG)とイラク中央政府の衝突の寸前まできているが、ここに至った直接の契機は9月25日のクルド独立住民投票が、イラクの憲法上の正当な地位を持つクルド地域の外にある(ただしKRGの実効支配下に2014年以来ある)キルクークな…
イラク政府軍部隊が、クルドKRGが実効支配するキルクーク周辺部の軍事空港(K-1基地)に向けて進軍を始めたと報じられている。クルド人が歴史的に帰属を主張するキルクークは大規模な油田を擁し、ここをイラク政府軍とKRGのどちらが掌握するかが、クルド独立の経済的な成否を…
サウジの壮大な経済改革(国家改造)プラン「ヴィジョン2030」の目玉、そして改革を成立させる前提条件とも言える国営石油会社サウジアラムコ(Saudi Aramco)の新規株式公開(IPO)だが、迷走を極めている。「ヴィジョン2030」の実現可能性は大いに懐疑的に見られており、そ…
トルコのエルドアン大統領が、10月4日、イランの首都テヘランを訪問しており、ロウハーニー大統領だけでなく、最高指導者ハメネイ師とも面会する模様だ。主要な議題はクルド問題と見られている。エルドアン大統領のイラン訪問に先立つ10月1日、トルコのフルシ・アカル参謀総長…
カナダ・エドモントンやフランス・マルセイユで9月の末にローン・ウルフ型のテロが続発した背景に、9月28日に公開されたとみられるアブー・バクル・バグダーディーの音声声明は何らかの影響を及ぼしているのだろうか。"'New Baghdadi tape' posted by Islamic State group," B…
過去半月の間に、世界各地で、「ローン・ウルフ型」のテロが続発している。ラスベガスの事件がどのように他のものと関連するか分からないが、とりあえず一覧で基礎事実をまとめておこう。9月15日 英国・ロンドンの地下鉄ディストリクト・ライン(District Line)の列車内に置…
米国ラスベガスで10月1日夜に起きた銃乱射事件は少なくとも59名の死者、400名を超える負傷者を出し、米国でも前例の少ない規模の銃犯罪事件となった。ここでも「イスラーム国」に近いメディア組織アゥマーク通信(Amaq)が犯行を主張する声明を出した。1つ目の声明では、犯人…
先ほどは、ハマース支配下で封鎖され孤立したガザを巡って、ファタハとハマースの歩み寄りが、UAEやサウジやエジプトの後押しによって進められていることを記した。これはサウジとUAEが、カタールとイランを敵と見立てて行う、地域内の覇権ブロック構築の試みの一環と言える。…
パレスチナのガザを支配してきたイスラーム主義のハマースが、ヨルダン川西岸のラーマッラーを拠点としたパレスチナ自治政府を掌握するPLO主流派ファタハへの接近を進めている。10月2日、ファタハとハマースの統一政府の首相としてファタハのラーミー・ハムダッラーがガザ地区…
半月ほど、この欄でのつぶやきが途絶えてしまった。この欄の更新が止まる時は、中東で何か深いところで変化が起こっていると考えていただきたい。重要な、しかし精査を要する情報が中東から奔流のように流れてくると、処理能力を超えてしまう。「面白いニュース」は無数にある…
中東でも中国の動向に注目が集まる。中国のインド洋への海洋進出を「真珠の首飾り」と呼ぶことがあるが、中東付近ではパキスタンのグワダルと、ジブチでの港湾開発が注目されてきた。それらの中間地点のオマーンが次の中国の進出先として注目される。昨年5月に結ばれた合意に…
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