池内恵の中東通信
池内恵(いけうちさとし 東京大学教授)が、中東情勢とイスラーム教やその思想について日々少しずつ解説します。
先ほどメモを記した米トランプ政権の対エジプト軍事・経済援助の差し止め・延期について、ニューヨーク・タイムズは、エジプトの北朝鮮との深い繋がりを問題視してのものだという見立てで報じている。"U.S. Slaps Egypt on Human Rights Record and Ties to North Korea," The…
トランプ政権の行方が不透明だが、対中東政策では少し気になる動きがある。"Exclusive: U.S. to withhold up to $290 million in Egypt aid," Reuters, August 23, 2017.米国がエジプトの人権問題・民主化の滞りへの懸念を理由に、9570万ドルの援助要請を却下し、さらに1億950…
先ほどサウジの紅海岸リゾート開発計画についてのメモをこの「中東通信」欄に上げたが、ジェッダ、ラービグ、ヤンブー、ワジュフ・・・といった地名に馴染みがない読者も多いかもしれない。これらの地名を頭に入れるには、現在のヨルダン王家である、メッカの太守だったハーシ…
8月1日、サウジアラビア国営通信(SPA)は、ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子の肝入りプロジェクトとして、紅海岸リゾート開発計画を発表した。ブルームバーグの記事がより詳細である。"Saudi Arabia Plans a Huge Red Sea Beach Tourism Project," Bloomberg, August 1, 2…
7月27日に、トランプ政権の国家安全保障会議(NSC)で中東担当上級部長・大統領特別顧問を務めていたデレク・ハーヴェイ退役陸軍大佐が更迭されたと報じられた。"Derek Harvey Out at NSC: One of the smartest minds on Iraq gets the boot," Weekly Standard, July 27, 201…
UAEはエジプトやサウジアラビアと共に、カタールとその支援に部分的に頼るムスリム同胞団系諸勢力への攻勢を強めているが、パレスチナのガザを支配するハマースに対しては、かなり周到な工作を仕掛けているようだ。カタールに対して突きつけた13項目の要求では、ムスリム同胞…
エルドアン大統領が7月23・24日にアラビア半島・ペルシア湾岸のGCC主要国を歴訪している。サウジ→クウェート→カタールという歴訪日程からは、サウジ・UAE主導の対カタール制裁の解除を目指す仲介外交と言っていいが、トルコ・エルドアン政権のムスリム同胞団との深い関係や…
中国がジブチで鉄道と港湾施設の建設、そして初の海外軍事拠点の開設の準備を進めていることについては、「中東通信」欄では様々に注目してきたが、近く海軍艦船の「保障基地」が開かれる模様である。7月11日に、広東省湛江の軍港で駐留部隊の出発式が行われたと広く報じられ…
シリア南西部での停戦に関して、7月7日に米・露・ヨルダンの合意が発表され、9日に発効したが、この次の展開として注目されるのが、合意の実質的な当事者と目されているイスラエルの動きである。合意はシリアの南西部の3県を対象とするが、ここにはデラア県とスワイダー県に…
「6月30日」はエジプトのスィースィー政権が正統性の根拠を置く出来事が生じた日である。2013年の6月30日にタハリール広場で行われた大規模デモは、エジプト軍が「アラブの春」を覆すために、その発生を黙認し支援し、しまいには扇動した、政治的な大衆動員だったと現時点から…
6月21日の新皇太子任命にまつわる一連の施策では、皇太子と同年代で、初代国王からの世代としては一世代格下の第4世代の王子たちを、内務省と王宮府(4月にここにもテロ対策機関が設置され内務省から権限の一部を移した)に集めたこと、また将来の皇太子任命では国王と同一…
6月21日に発表された、サウジの前皇太子(ムハンマド・ビン・ナーイフ)更迭と、息子のムハンマド新皇太子の任命に伴って行われた人事は、ムハンマド新皇太子と同年代の王子を、テロ対策を担当する内務省や総合情報局と、ムハンマド皇太子が父サルマーン国王と共に統治の任に…
サウジの新皇太子擁立は、6月21日早朝にサウジ国営通信社(Saudi Press Agency; Wakala al-Anba' al-Saudiyya)から矢継ぎ早に配信された、16本の勅令によって明らかになった。第255号−第270号の16本の勅令は、全体としてみれば、前皇太子の解任と新皇太子の任命に始まり、初…
サウジ情勢を各種メディアを通じて観察していると、政治・国際関係の分析とは別に、私の本業でもあるイスラーム政治思想に関わる概念が飛び交うので、興味深い。国王の実子を皇太子に擁立し、次期国王を確定させたというこの場面では、次期国王の即位の際に行われる、伝統的な…
6月21日のサウジのムハンマド・ビン・ナーイフ皇太子更迭と、サルマーン国王の実子のムハンマド・ビン・サルマーン副皇太子の皇太子への昇格は、長幼の序を重んじ、各世代で兄弟間で順に権力を継承してきた慣例を破り、米政府との関係も良かった前皇太子を排除して、若い新皇…
6月7日のテヘランでのテロ(死者は17名に増えた)に関して「イスラーム国」が相次いで犯行声明を出しており、イランの捜査当局もこれを裏づける発表をしている。これまで「イスラーム国」はイランでテロを行ったことはなかった。そもそもシーア派かつイラン人が主体のイランで…
6月7日のテヘランでのテロを行ったのは「イスラーム国」であり、実行犯はイラン人である、とイランの諜報当局が8日に明らかにした。"Iran attackers fought for Islamic State in Syria, Iraq: ministry," Reuters, June 8, 2017.該当部分は以下の部分で、要約すると、諜報当…
テヘランの国会・ホメイニ廟同時テロで、「イスラーム国」のアゥマーク通信が声明を出しているが、やはり疑いはサウジに向けられている。イランの革命防衛隊は声明でサウジを名指しして容疑を向け、トランプ大統領との会合直後に「イスラーム国」が犯行を主張するテロが起きて…
6月7日のテヘランのテロとの関連は今のところまったく報道に出てきていないが、取り締まりの過程で紛争が激化する可能性があるので注意が必要なのは、イラン西部のフーゼスターン州・アフワーズ(Ahvaz; Ahwaz)である。この地域はイランの石油・天然ガスの多くを産出する地帯…
6月7日のテヘラン国会・ホメイニ廟へのテロは、実行主体も背後関係も分からない。「イスラーム国」の犯行声明も関係がはっきりしない。「イスラーム国」が今年に入ってから、ペルシア語でのプロパガンダを増やし、対イランの宣伝を行っていたことは確かだろう。Golnaz Esfandi…
- 24時間
- 1週間
- f
-
1
イエメン紛争:停戦の行方を握る「フーシー派抑止」の集団指導体制
- 2 「2022年にも出生数80万人割れ」の衝撃――政府予測より20年前倒しの少子化をくい止めるには「異次元子育て支援」が必要だ
-
3
日本アカデミアがコロナ研究をできない憂うべき実態と、その敵
-
4
消えゆくナイジェリアの森林 木よりも多い木こり
-
5
仮想通貨下落が北朝鮮の“窃盗資産”を脅かす
- 6 与野党より「岸田・安倍」の火花が散る参院選
-
7
Q.17 酒鬼薔薇聖斗は社会復帰しているか
- 8 「偽装難民」論議でミャンマー人を見殺しにする日本
-
9
ウクライナ戦争を支えるNATOの「険しい前途」
-
10
【Analysis】地域格差是正が遠のいている「ブレグジット後」のイギリス経済